養護教諭 寒椿優衣の薔薇色の日々D-1
沖君は土手に腰を下ろして川を見つめていたの。
こういう河川敷って青春ドラマのお約束よね。
沖君たら、川を見つめて何か考え込んでる様で私が近づいても気がつかなったの。
不意に沖君が煙草をくわえたから…私は後ろから手を伸ばしてくわえた煙草を取り上げたの。
「なん!…あっ!あんたか…」
喧嘩腰で振り返った沖君がバツが悪そうに笑ったの。
「煙草なんて止めなさいよ」
私は風に吹かれて髪を乱しながら沖君に笑いかけたの。
「高校生は煙草なんて吸っちゃ…ダメですってか」
沖君がシニカルな笑いを浮かべたの。
「そんな…今更そんな野暮や事は言わないわ。
ただマウンドで投げる体力が損なわれるわよ…こんなの吸ってたら」
私の言葉に驚いた様に私を見つめた沖君。
でも直ぐにこぼれる様な笑顔を見せたの。
「あんた…何でも知ってんだな」
「知ってるわよ…村野君の事も」
私は沖君の横に腰を下ろしたの。
沖君の瞳は遠くを見つめていたわ。
「いいの?このままで…」
私は沖君のワイルドな横顔をじっと見詰めたの。
「仕方ねぇだろ…」
沖君がボソッと呟いたの。
「あなた不良でしょ…いつからそんな聞き分けのいい子になったのよ」
「あっ!?」
私の言葉に驚いた様に沖君が私の方を見たの。
「強引でもいいじゃない!力づくでもいいじゃない!村野君は止めさせねぇ!って不良の意地見せなさいよ!」
私は瞬きもせずに沖君の瞳を見つめ続けてたの。
沖君も黙ってジッと私の瞳を見てたわ。
「なぁ…何で…あんた…そこまで俺達を心配すんだんよ」
沖君が不意に視線を逸らすと静かに言ったの。
「サンピーしたいからよ…私とあなたと村野君で…あと…」
「あと?」
沖の表情がちょっと険しくなったの。
「川村先生にも貸しを作りたいじゃない…抱いてもらう為に…」
沖君は険しい表情もまま…僅かな沈黙が流れたの。
「ぷっ…」
不意に沖君が吹き出し…苦笑いを浮かべ出したの。
「あんた…恐ろしい程正直だな…」
沖君は眩しい笑顔を浮かべながら立ち上がったの。
「行くの?」
私も微笑んで言ったの。
「あったりめぇだ!」
風の音に負けない沖の力強い声…素敵だわ。
「村野の為じゃねぇ!あんたとサンピーする為だからな!」
沖君は私に背中を向けて歩き出したの。
「それにね…あなた達にみんな揃って笑顔で卒業してもらいたのよ…」
私はその背中に小さく囁いたの。
私が少し遅れて到着すると二人はいなかったわ。
辺りを探していると小さな人気のない公園で二人を見つけたの。
“やだ…沖君…ボロボロじゃない…”沖君は一方的に村野君に殴られていたわ。
「力づくって言ってんのに!何で手出さねぇんだよ!」
村野君が沖君を殴りつけたの。
“なに!やってるの!”私は駆け寄ったの。
「川村…と約束したからな…」
沖君…あんなになっても笑ってる。
「ふざけんな!」
また村野君が沖を殴りつけたの。
「ふざけてねぇ…戻ってこい…村野…」
沖君…苦しそうなのに。
私は止めなきゃいけないに…沖君の思いに打たれて動けなかったの。