囚われからのプロローグ-1
そこは私室なのだろう、それほど広くはない部屋だった。
薄暗い魔導照明の中、部屋を覆い尽くそうかという十掛を超える本棚が実に異様で、威圧的である。
しかし、この部屋の持ち主――パスク・テュルグレに比べれば可愛いものだ。
そんな若干の息苦しさを覚える室内の端に、まるで気まぐれのように設えられた寝台の上で気の強そうな吊り目が印象的な栗毛の女騎士――アリスは胸中でそう、ひとりごちた。
そして、同じく声に出さずに続ける。
(まぁ……そんな部屋で、そんな部屋の持ち主の慰み者にされようと、枷をはめられて、ベッドに寝かされた自分が一番、可愛らしく、脆弱な存在なんでしょうけど……)
そう、アリスは結論付けると悲哀に瞳を曇らせ、自嘲的な笑みをその赤く、扇情的な唇に浮かべた。
アリス――アリス・バハムントは聖騎士だ。
いや、聖騎士だった。
彼女はこの『ラクシエラ』と呼ばれる大陸の東の一小国、リンクス王国に仕えていた。
身長は女性にしては高いほうで、騎士のため化粧っ気のないが、目鼻立ちのしっかりとした美女である。
ウェイブのかかったブラウンの綺麗な髪を肩まで延ばしており、その髪質は彼女の密かな自慢であった。
今年で満二十三才である。
一般的に『聖騎士』の称号を授かるにはあまりにも若かったが、それには理由があった。
リンクス王国の唯一の正妃の子、エレナ王女の学友にして乳母姉妹なのだ。
つまり、エレナ王女の幼馴染である。
そして、年齢が四つ離れたアリスをエレナは実の姉のように慕っていたし、アリスにしたってその身をかけて、一生、守ろうと心に誓っていた。
そのような経緯があり、剣の腕が立ったアリスは騎士叙勲後、間もなくエレナの親衛隊の任を授かり、その時に『聖騎士』の称号も下賜されたのだ。
――閑話休題。
そんな、騎士の中でもエリート中のエリートであるはずのアリスが現在、手枷を填められ、鎧こそ纏っているものの武器類の武装を解除された状態で、それほど上等でもないベッドに寝かされているかと言うと――、