囚われからのプロローグ-6
――というよりも、先ほどまでの己の中で渦巻いていた緊張や、不安や、若干の――。ううんっ!あれらはなんだったのだ?
あの、自分の覚悟を返してくれ、と言いたい。
アリスは唇を尖らせると、言う。
「私は、貴様らゴルドキウス人と話すことなどない」
アリスも、すでにこの程度ではこの『魔人』と呼ばれる青年が怒るとは思っていなかった。
案の定、パスクは困ったように微笑むだけだ。
ただ、一瞬、パスクのその切れ長な瞳が光ったようにアリスは見えた。
「いえ、私はゴルドキウス人じゃあ、ありませんし……」
「なに?」
「正しくはどこか分かりませんが、生まれたのはリンクス王国の辺りでして……」
「き、貴様、リンクス人だったのか……」
「ええ、まぁ、はい。そのことで、その……少し、お話しを、と。まぁ、アリスさんが――――」
アリスの驚嘆にパスクは尚も続けるが、その言葉は一節たりともアリスの耳には入っていなかった。
自身の鼓動が早くなるのをアリスは感じる。
――この、男は祖国へと攻め入ったのか?
己の生まれた国へと杖を向け、滅ぼしたのかっ?
なぜ、そのようなことをして、平然としてられるのだッ?
アリスは視界が真っ赤になるかのように、感じた。
目前で滔々と話す銀髪の青年が堪らなく許せなくなった。
「――まぁ、それで、アリスさんは、その覚えているか、どうかは……あの、『パスク』という名に聞き覚えは――」
「――ッ!ある訳がなかろうっ!貴様の、自身でその母国を滅ぼした男の名など知りたくもないっ!」
「……はい?」
瞬間、空気が氷のように冷たく、刃のように鋭く変わった。
しかし、激昂するアリスにはその微細な変化を気取ることは適わなかった。
そして、内なる憤怒に従って、感情をぶちまける。