囚われからのプロローグ-3
「……ふんっ。随分と遅かったな。なにか準備でもしていたのか?」
アリスは、その内心の不安と緊張を紛らわそうと、あえて高圧的に口を開いた。
エレナが捕まっている以上、自分だけ逃げることはできない。
ならば、精々、虚勢ぐらいは張ってもいいだろう。
口元に笑みを浮かべたままだったが、パスクは少々、呆気に取られたように目を見開いて、アリスをその双眸に収めた。
「アリスさん。貴女、ご自分のお立場を理解されているので?他の方の前ではもう少し、お淑やかになされることをお勧めしますが……。ところで、なぜ、手枷を填めているのです?まさか、貴女のご趣味――」
手の平で口元を覆って驚愕するパスクへアリスは思わず、怒鳴った。
「だ、誰がだっ!貴様の趣味だろうっ。この枷も、鎧もっ!」
「はい?いえ、残念ながら私には、そのような趣味はありませんが……」
「私にもない!だから、残念でもないし、「私には――」という台詞も間違っている!訂正しろっ!」
「はぁ……申し訳ありません」
「…………」
驚くべきことにパスクは素直にアリスの求めに応じ、頭を下げた。
今度はアリスが呆気に取られる番であった。
この、目前の鬼畜外道と謳われる『魔人』の言動が意味不明だったのだ。
そして、戦場で相対したときの、あの肌が粟立つ『怖さ』もいまは感じられなかった。
敵愾心を発しながらも、怪訝な表情を浮かべるアリスへパスクは困ったように続ける。