囚われからのプロローグ-22
「……?……ッ!」
パスクは脱ぎ捨ててあった衣類へと手を伸ばしたが、その手を一旦止め、杖を握ると一振り、アリスの手枷を外した。
瞳を大きく広げ、驚くアリスへパスクは微笑みかける。
「本当にお詫びの言葉もありません。貴女に私はなんてことを……枷も付けなくて良いです。この部屋にあるモノは好きに使っていただいても良いですし、なにかあれば侍女に命じてください。言うことを聞くように、言っておきますから……すみませんでした」
「ま、待て……パスクはどこへ……」
「自分を襲った男とは一緒にいたくはないでしょう?寝るところなど、いくらでもありますから……」
「いや……そうじゃなく……」
アリスは途惑った。
出て行こうとするパスクを見ると――胸が痛いのだ。
自分は彼を傷つけてしまった。
だが、彼は――まぁ、一時の激情には流されたが――そんな自分を笑って許し、そして、自分のために動いてくれるのだ。
こんな、不義理な女の、もう十年以上前の気まぐれのような偽善へと恩を返すために……。
バカな男である。
しかし、いや、だからこそ、堪らなく――。
「…………、〜〜っ!パ、パスクッ」
「はい?まだ、なに……か?――ッ」
アリスはローブへと袖を通し、寝台から立ち上がったパスクの姿に切羽詰った。
ここで、分かれたら――きっと、一生、後悔する。それだけは確かなことだ。
だから、混乱気味にその名を叫び、呼び止めた。
振り返るパスクに擦り寄るとその首へと腕を回し、アリスはその血の気のない唇へと自身のソレを押し重ねた。
アリスは頬を朱色にして目をギュッと瞑り、パスクは驚きに切れ長の双眸を見開き、そして、アリスの裸体を隠していたシーツが床へハラリと落ちた。
「ん、ふぅ…………ちゅ……」
アリスはたっぷり十秒、唇を重ねるだけの接吻をするとパスクの唇を開放した。
パスクは茫然自失と呟く。