囚われからのプロローグ-21
「私は――あの後、ゴルドキウス帝国へと追放され、リンクスという国を憎みました。私にはどうすることもできなかったのに、なぜ、とね。――ああ、もちろん、貴女と王女は別ですが。そして、才があったのでしょう、偶然、知り合った魔導学院の教師に推薦され、学院に入学しました。学費は免除でね。これでも、優秀だったんですよ、私――そして、卒業後、帝国軍に入り、帝国がリンクスを攻めるというとき、歓喜に心震えました。ですが、一抹の不安が……貴女と王女です」
「……ということは、あの時……手を抜いていたのか?」
アリスの言う『あの時』とはリンクス王城でパスク率いる『陸の波濤』中隊と遭遇したときのことだ。
アリスや親衛隊はそれこそ、死ぬ気で立ち向かったが一分も持たず、このパスク――『魔人』ただひとりに敗北した。
だが、話しの流れからして、全力で戦ったとは考えにくい。
「むぅ……」とアリスはパスクを睨んだ。
手加減など騎士道に外れた行為だと、糾弾しているのである。
「す、すみません。私程度の権限だとああするしか方法は…………」
パスクは頭を下げて、アリスへと詫びた。
だが、アリスとしても本気で許せないわけではない。
なににおいても、この男のお陰で王女と自分は生きているからだ。
アリスは怒りに寄った眉間のシワをフッと解き、微笑を浮かべた。
「――冗談だ。そんなことよりも、パスクはもっと私に対して怒るべきだ。君の行為の百倍、私のは酷いぞ?」
「そ、そんな……私など……」
ひたすら恐縮する『魔人』があまりにも滑稽で、アリスは吹きだした。
そこで、ようやくパスクもからかわれたことに気付き、困り顔で頬をかく。
そして、笑うアリスへと言葉をかけた。
「私は、この身に代えても貴女を守ります。王女も……将軍や上層部にも働きかけてみます。最悪――なんとかします。ですから、手前勝手ですが……ご容赦を」