囚われからのプロローグ-20
「……パスク…………」
「はい?」
目の前で『魔人』パスク・テュレグレは覗き込むように首をかしげた。
そんな青年を唖然と見つめるアリスだったが、我に返ると、今度はその名を叫んだ。
「パ、パスク……貴様、いや――き、君は男だったのかっ!?」
「……?なにを?」
パスクは不思議なものでも見るようにアリスを見つめた。
アリスは跳ね起きるとそんな青年へと詰め寄った。
「男だったのか、と聞いているっ!てっきりっ、女だとっ――だから、私はッ!」
「…………思い、出されたので?」
パスクは驚いたように、そして、同時に嬉しそうに言った。
アリスは「うむ……」と申し訳無さそうに頷く。
「……ああ。いま、思い出した。しかし、なぜ、忘れてしまったのだ、私は?」
「貴女は貴族――大貴族です。一平民のことなど、心にとどめておく必要はありませんよ」
「だがっ、私は――」
――自ら与えた名を貶した、と言おうとしたが、パスクはアリスのそんな唇へと人差し指を当て、続く言葉を封じた。
そして、微笑むと言った。
「思い出していただけでも、私は嬉しいです。私はあの――十三年前のあの日、貴女の名を聞き、一生、忘れない、いつか恩を返そうと思っていました。それなのに、私はあのような……最低です。申し訳ありません」
「そんな……こと……」
済まなそうに頭を下げたパスクは、遠い目をして続ける。