囚われからのプロローグ-19
その川べりにひとりの少女が倒れていた。
銀色の髪をした、色白の、整った顔立ちの少女だった。
身なりから、とても裕福だとは思えなかったが、私は逡巡の後、駆け寄り、介抱した。
後から来た王女は事情を知ると屋敷まで人を呼びに戻った。
その間、私と、その少女二人だけだった。
そんなときに、少女は一度、目を覚ましたので、名を聞いた。
すると、「自分に名はない」と言う。仲間からは名無しの『ナシ』と呼ばれていたらしい。
それだけ言うと、少女は再び、昏睡した。
その後、屋敷の者が迎えに来て、少女は衰弱しているだけだと聞き、ホッとしたのを覚えている。
だが、そこで事態は急変した。
山賊の討伐隊から、山賊の一味である子供をひとり、取り逃がしたのだという。
もちろん、それはその少女のことで、騎士は少女が覚醒次第、尋問し、捕縛すると言った。
私はさすがに我慢できず、バハムント侯爵家の名を出し、自分を先に尋問させろと命じた。
思い返してみると、家の名を振りかざす、はなはだ、迷惑な少女だっただろう。
そして、結局、私は目を覚ました少女と話すことができ、身の上を聞いた。
農家に生まれ、間引きとして幼いうちに人買いに売られ――人身売買はリンクス王国では違法だ――、流れ流れて山賊の雑用係になったそうだ。
事情を知った私は全力で少女を弁護した。
だが、齢十の少女が大の大人――しかも、正当性のある――を論破できるはずもなく、しかしながら、侯爵家の息女にして、王女の学友の顔も立てようとしたのか、判決は国外追放で決着した。
まぁ、山賊行為は有無も言わさず死罪なのだから、減刑は減刑だろうが、有罪であることには変わりはない。
そこで、その少女を不憫に思った自分は王女と「何かできることはないか?」と相談し、名前を授けようと決めたのだ。
正直、子供の浅知恵としか評しようがないが、まぁ、あのときはそれが精一杯だったのだ。
そして、王女と二人、考えに考え、名付けたのが――