囚われからのプロローグ-17
――なにが、悲しいのだ、この男は?
まさか、私が、信じなかったことが、か?
釈然としないアリス。
だが、全裸と半裸の男女ながらもパスクからは、いままでのあの恐ろしい気配は消えていた。
ただ、儚げに寝台の縁に腰をかけているだけだ。
アリスは、その、先ほどとは別の意味で重たい雰囲気に思わず、口を開いた。
「……先ほど、貴様の名をなじったのは、すまなかった。腹が立ったのだ、祖国へと杖を向けた貴様が。別に、不抜けた名だとは思わん。すまなかった。だが、なんなのだ、貴様は?理解不能だ……」
「……………………」
パスクはアリスの謝罪に肩を揺らしたが、続く台詞に再び、肩を落とした。
そして、陰鬱と振り返り、半裸のアリスを見つめる。
「はぁ……」と溜息を吐き、手近の毛布を手に取ると広げ、アリスへと被せた。
「……私のほうこそ、とんだ酷いことを。申し訳ありません。昔から、どうも一度、キレてしまうとどうしようもなくて……」
「いや、まぁ……うん……」
アリスは曖昧な相槌を打った。
酷いこと、なのは確かだったが、いざ、謝られるとどうとも言えない。
一線は越えていないし、自分にも落ち度があったからだ。
そんなアリスの心情を知ってか知らずか、パスクはアリスの栗色の髪を指で梳いて、話し始めた。
「……貴女が覚えていないのも仕方がない。貴女にとっては、ただの日常だったのでしょうから。私も貴女と、こうやって話す前まではそう思っていました。結局、その事実に衝撃を受けてしまいましたがね……」
「私は……会ったことがあるのか?貴様と?」
ニコリと、『魔人』は嘘のように微笑み、肯定すると続ける。