過ぎ行く時の中、残されるモノ-5
「そういえば、隆はなんでここに居るの?」
ゲームの話題は合わないみたいだし、僕は話を変えることにした。
というか、隆は帰る方法を知っているのに、どうしてだろ?
僕だったら、こんな怖い場所に居たくないのに……。
「僕は、ここを出る方法を教えないといけないから……」
「教える? そんなにここって複雑なの? 迷路みたいだけど」
「迷路か……、確かにそうかもね。皆、出口を探してるようなもんだし」
「隆は知ってるんでしょ? なら……ああ、なるほど。僕みたいにいきなりこんな場所に放り込まれた子を助けるためにいるんだね?」
「……ああ、そうかもね。確かにそうだ。僕は和義みたいな子に出る方法を教えるためにいるのかもしれない……」
なんかいいにくそうだけど、でも隆はちょっぴりほっとした様子だった。多分。
「じゃあ出口を探そうか……。いくつか質問するけどいいかい?」
「え? いいけど」
出口を探すのなら、さっさと行けばいいのに……。
でも、僕もたくさん質問したし、これでおあいこかな?
「和義はここに来る前、何をしていたか覚えてる?」
「えと、皆とサッカーしてて、忠志と帰ってた」
「そう。それで? 帰り道に特別なこととかは?」
「んと、だんだん暗くなってきて……」
僕は歩きながら話すことにした。
――えっと、暗くなってきて、それで、忠志に早く帰ろうって言ったんだ。けど、あいつはまだ遊びたいらしくって、アミに入ったボールを手で下げて蹴ってた。
――暗いのが怖いから僕らは通学路じゃなく、車の通りを歩いてたはずなんだ。
――電灯とかヘッドライトのおかげでそんなに怖くないしさ。
――たまに忠志の蹴っていたボールが車道に飛び出しそうになったけど、そんなに車どおりがあるわけじゃないし、大丈夫だと思ったんだ。
――多分。
――なんか頭が痛い。
――そして、確か、えと……。
「まだ思い出せない? まぁいいや。どうせ車だろうし……」
僕が足を止めると、隆は通りを見つめて何かを考えている様子。
「道路か。でも、さっき見たときは……、それに友達は……」
「どうかしたの?」
「なぁ、どこか痛むところとか無いか?」
「痛むところ? そういえば、さっきからずっと右足というか、腰とか痛いんだ……」
「そう、他には?」
「あと、なんか息苦しい」
「首?」
「首? あ、そうかも……」
「なるほど……」
「なにが?」
「いや、こっちのこと……」
隆は何か納得がいったのか、頷いていた。けど、僕にはそれを教えてくれそうに無かった。
「じゃあ、そうだな、さっきのところに戻ろうか」
「ちょっと待ってよ。帰り道を教えてくれるんでしょ? なんで戻るのさ? ここまで来た意味はなんなのさ?」
さっきから変だ。というか、戻るってどういうこと? ここから出るのに、どうして寄り道なんかするの? 意味がわからない!
「いや、そうじゃなくて……、ここに居ても出られないし……」
「え? なんだか意味がわからないよ。隆、いったいどういうことなの?」
僕にせっつかれる隆はとてもいいにくそうで、たじろいでいるようにも見える。
「多分、近くに居ると思うし……」
「近くに居る? 何が? まさかアイツら?」
アイツらが居るのならそんなところに戻るなんてごめんだ。それに、あそこには……。
「とにかく、ここに居ても出ることはできない。僕を信じて着いてきて欲しい……」
「うん……わかったよ」
隆が僕を騙しているとは思えないし、それに、いまさら一人になるなんて考えたくない。でも、やっぱりわからない。どうしてさっさと出口に向かわないの?