過ぎ行く時の中、残されるモノ-3
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どれぐらい走ったかわからない。
息がぜぇはぁいうし、すごく苦しい。
右足もどんどん痛くなるし、もう走れない。
後ろから誰かが追っかけてくる気配もないし、僕は突き当たりを曲がったところで、しゃがみこんだ。
もうこのまま倒れてしまいたいけど、でも、もしアイツらが来たらと思うと、このまま休むのも危ないかもしれない。
五分だけ。
時計はないけど、でも、しばらく休む。
じゃないと、走れない。
さっきの子、大丈夫かな。
僕が逃げ出したことわからないと思うし、それに、もしアイツに遭ったらどうなるんだろ。
心配だなあ。
でも、帰る道知っているなら……。
っていうか、帰る?
というか、ここどこ?
本当に日本?
これまで生きてきたけど、僕、あんな恰好の子、見たこと無いよ。
だって、あんな状態で生きていられるはずないもの。
脳裏に浮かぶさっきの子の姿。
明らかに生きていられるはずがないのに、それでも僕を見つめて、手を伸ばし、声をかけ、追いかけてきた。
もしかして、何かの実験場とか?
映画やゲームの世界だと、ウイルスの影響でゾンビになって、ぼろぼろになっても生きていられるとか……。
確か、バイオハザードとか言う映画だったけど、その世界に迷い込んだとか?
そんなの……、だって、僕には武器も何もないのに、どうやって戦えばいいの?
もう嫌だよ。
こんなところ……。
…………。
なんかお尻が冷たい。
濡れてるのかな?
辺りを手で探ってみると、やっぱり濡れていた。
それが僕のおしっこじゃないのはわかるけど、いったい何?
……ん?
……誰か居る?
暗がりの中、弱い明かりの下に誰かのシルエットがある。
僕は瞬間、身構える。
アイツらなら困るけど、でも、その誰かは座ったまま動かない。
「だれ?」
僕の問いかけにも無反応。
何か武器になるものはないかとランドセルの中を探す。
見つかったのは三十センチの定規。僕はそれを剣のように構えると、じりじりと近づいた。
ぴちゃぴちゃと音がする。さっきの水はそいつのほうから流れているみたい。でも、そいつは座ったまま動く気配が無い。
「誰なんだ……君は……」
僕が前に立っても座ったままのそいつに声をかける。
やっぱり返事は無い。
定規で頭をつついてみたけど、反応は無くて、それどころか、そのまま倒れた。
「え?」
そいつはそのまま倒れたんだけど、何かが撒き散らされるようなちゃぱって音がした。
なんだろ?
気になって蛍のライトを取り出して明かりをつける。
「ひっ!?」
その子、横になってるんだけど、でも、ただ横になるっていうじゃない。
頭が陥没してて、そこからいろいろ飛び出して、だから、なんていうのか、さっき見たアイツと同じなんだ。違うのは、動き出さないところぐらい!
「ぎゃぁ!!!!」
腰が抜けた僕はそのまま倒れこんでしまい、しばらくそれから目を離すことができなかった。
でも……、しばらくして僕はあることに気付く。
それに見覚えがあるんだ。
近くにはランドセルがあって、ボールがころころ転がってる。
「忠志……?」
間違いない。忠志だ。
だけど、返事はない。
多分、死んでる。
「うっ……うげぇえええぇぇ……」
途端、こみ上げるものが口の中を酸っぱくさせる。
抗うことなくそこらへんにぶちまける。
さっきまで水だと思っていたのは忠志から流れてきた血なんだ。
それに僕の吐いたものが混じり、周囲を汚す……。
「ここに居たのか……」
誰かが僕の背中をさする。
詰まったものを吐き出すと、だいぶ楽になる。
声は聞き覚えがある。
さっきの子だ……。
僕は安心すると、そのまま横になって目を閉じた。