〈蠢く瞳〉-10
翌朝。
遂に合宿の日が訪れた。
殆ど眠れなかった夏帆は、登校して直ぐに部室へと駆けた。
鍵が開いている……はやる気持ちを抑えて、ドアを開けた。
夏帆「先輩…おはようございます」
有海「おはよう。早いのね」
有海は、いつもと変わらぬ様子で、部室の椅子に座っていた。
足元には二つのスポーツバッグ。
かなり早く来ていたのか、手に持ったペットボトルの中身は、殆ど無くなっていた。
有海「いよいよ合宿ね。今日も厳しくいくから」
テニス部の先輩としての態度で、夏帆に話す……夏帆は小さく頷いたまま動かなくなった。
有海「返事は?……ダメねえ」
夏帆「せ、先輩……んう…」
相変わらず、有海はぎこちない動きで唇を重ね、舌先を絡める……大人ぶった態度を取り繕っても、所詮は中学生……だが、その強がりもまた、夏帆からすれば有海の“魅力”なのだった。
夏帆「……だ、誰か来るかも…?」
有海「大丈夫よ……」
夏帆は包み込むように有海を抱きしめていた……いつも強気な先輩が、たまらなく可愛く思えていた……互いが唇を求めあい、しっかりと重なる二人……夏帆も有海も、自分が大人びた女性を演じて背伸びをしているのに気付いていた……それはまるで、ドラマのヒロインにでもなったかのような恍惚を覚えさせ、小さな自惚れを起こさせていた。
有海「……夏帆を誰にも負けない選手にしてあげる」
悪戯っぽく、しかし真剣な瞳で有海は夏帆を見つめた。
夏帆も真剣な眼差しで、有海の瞳を見つめていた。
夏帆「……私、先輩の為に頑張る……有海先輩の為に………」
またも唇は重なり、舌は互いを求めて絡み合う。
ピチャピチャと唾液が歌い、甘い吐息がリズムを刻む……と、夏帆の下腹部に、何かムズムズとした感覚が生まれた……それは下腹部から股間、そして太股まで貫き、ピリピリと下半身を刺激し、体の力を奪っていった……それは有海も同じだった……優しくそよぐような快感を、二人の少女は初めて感じ、それに戸惑いながらもしっかりと抱きしめ、溶け合う体を絡ませていた……。
外の陽射しは強まり、朝のチャイムが校舎に響いた。二人は我にかえり、校門へと駆けた。
合宿での、二人の練習の事を、そしてこれからの二人の事を想いながら……。