秋桜-3
「店長、私と付き合って下さい」
「遅刻した挙げ句寝言を言うな、吉田。寝呆けてるんじゃないぞ」
ほら、この通りだ。
勘違いするな、昨日の夜ネタであみだくじに名前を入れたらお主が最後に当たっただけなんだぞ。
こんなソースの匂いが充満した小さな厨房に、店員は私とこの男の二人だけ。
本当に勘違いするなよ、働く姿が近いから時折胸の奥がきゅんきゅんしてしまうだけなんだからな。
バイトが終わる時にべちゃべちゃのたこ焼きをくれるくらいで、好きになどなるものか。
むしろ、物よりも照れ臭そうに目線を外しながら寄越すその仕草に萌えてなどいないのだぞ。
「ちっとは使える様になってきたな。やればできるみたいだ」
「わ、私を惑わさないで下さい!恋愛一直線であります!」
「バカ、青のりをばらまくな!あーあーマリモになっちまったじゃねえかよぉ」
一日の勤めを終えてようやく帰宅出来た。
寝る前に、知ってる限りの人の名前の中から数名選んであみだくじを作り、明日はその中の誰に告白するか決める。
これは幼稚園から毎晩欠かさずやっている行為だ。
可愛い女の子になるためにはとにかく恋をしなくては、と幼き日の私は考えた。
成長するに従い知人が増えていくから、数多くの人と恋に落ちるチャンスも比例するのだ。
おかげでもう色んな人に何回告白したか分からない。
今まで一度も成功した試しがないので、そろそろ限界かもしれないのだ。
どうしてなんだ?なぜ、誰も私の愛を受けとめてくれない?
誰かを愛するのはいけないのか、間違っているのか。
だが・・・朝になれば私の身体中にやる気が満ちている。
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(秋桜はね、例え雨や風で茎が折れてもそこからまた根を出して、花を咲かせるの)
(へえ〜。強いんだね秋桜って。ただ可愛いだけじゃないんだ)
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中学に上がる時、母さんが私に秋桜の事を話してくれた。
私にその花から取って名前をつけてくれたのは、そういう意味だったらしい。
何があっても負けない様に、そういう意味だったのかと思わず目から鱗だったのだ。
何度茎が折れたとしても、私はいつか必ず花を咲かせてみせる。
〜〜fin〜〜