秋桜-2
「牧野!好きだ、付き合ってやるぞ!」
「邪魔だ。帰ってくれ」
中学から一貫してこういう態度だ、こいつは。
だが分かるぞ、好きな女子には冷たくしてしまうものだと。
高校生であろうがそんなものは変わらない。早く素直になればいいものを。
「前から思ってたけどその制服ホント似合わないな。だから私と付き合え」
「お願いだから帰ってくれ!お前が来ると皆にいじられるんだよ!」
決してイケメンではないけれど、持ち前の明るさと突っ込みやすい雰囲気で男女問わずの人気者。
先生からも好かれていて、こうして学校の近くでバイトしても怒られないのだ。
いわゆる雰囲気イケメンというタイプだろうか。話しやすく、傍に居てくれると安心する、包容力のある男だな。十分惚れるに値するぞ。
だが、私にだけはスマイルもくれない。
「ポテトやるから帰れよ、ケチャップも付けるから。なあ頼むよ、へこむんだよマジで」
「そんな冷えた芋などいらん。お前の爽やかな笑顔が欲しい!私だけに見せろ!」
「出ていけ!!お前なんか客じゃない!!」
客を選ぶ様な男だったなど、私はお前を見損なったぞ。この野郎、道行く犬に卸したての靴に排尿されてしまえ!!
客の前で告白されたから恥ずかしいのだろう。ここも玉砕か。
気を取り直して三人目の所に向かうとしよう。
「天城!エプロンが可愛いな、私と付き合え!」
「どうした秋桜。男に相手にされなすぎてとうとう同性に走ったのかい」
「お前は女が惚れるタイプの女だ。恥ずかしいが胸がキュルルンだ、だから付き合え」
「顔色ひとつ変えずよく言えるよね、そういう下らないセリフ。あんた、前から思ってたけどやっぱ変だわ」
天城は駅前にあるそこそこ大きい本屋、あましろの一人娘だ。
すでに婚約者で去年待望の息子を授かったばかりの、幸せ真っ只中な女。
気さくで誰とも喋れる明るい性格で、黒ぶち眼鏡が似合っていて健康的な色香を醸しだす、なかなかたまらん女なのだ。
何も私が好きになる相手は学校の中だけではない。
あらゆる場所であらゆる人に惚れる事が出来る、それが私の持って生まれた能力なのだ。
視野は広く持たねばな。狭いより広い方がよかろう。
「時に天城よ、倅に乳は与えるのかね」
「そうだけど・・・それがどうかしたの」
「是非飲んでみたいな、母親の愛情を味わいたい。というわけでほれ、寄越せ」
「三つ数えるうちに帰りなさい。さもなくばこれが頭をへこませるわよ」
手にした百科辞典の大きさに驚いてしまう。
あれがまともに直撃したら、無駄に生命力のある私とて気絶は免れまい。
「私は諦めないぞ。貴様の母乳、貰い受ける!ではまたな」
「もう来るなっていつも言ってるでしょう?何遍言ったら分かるのかしら」
ちっ、またしても玉砕か。
女が女を好きになってはいけない法律など存在しないのに、運命とは過酷なものだ。
今日最後になってしまったな・・・仕方ない、気が乗らないが一応好きだから告白しておこう。