最後の夜・後編-18
それから二人は手を握り合って森を出た。
城まで着きガーネットの部屋の下まで来ると夜が明けて辺りは白み始めていた。
別れの時間。
もう紡ぐ言葉なんてなく、ただただ見つめ合った。
名残惜しい気持ちを振り切って繋いだ手を解くと、全てが夢のように思えてくる。
ガーネットは梯子を登り、部屋に降り立った。
部屋ではアンがベットの横で膝をついて眠っている。
窓に向き直り下を見た。
どこか遠い目でこちらを見つめるロイ。
目と目が合うと、ガーネットは微笑んだ。渾身の力で。
ロイは一瞬切なそうな顔をして、口角を上げてみせた。
――愛してる。
二人は心の中でそうつぶやくと、不思議と互いの声が耳に届いた気がした。
「ジャスパー様!!お待ち下さい!!城の中を走ってはいけません!!」
ふわふわした猫毛のプラチナブロンドをなびかせ、アンの静止を振り切った少年は大好きな母のもとに駆け寄った。
「母様ぁ!!」
ドレスの上から足にガバッと抱きつく。
「ジャスパー、アンを困らせてはいけないわ」
ガーネットが腰をかがめてジャスパーの後頭部を撫でながら微笑んだ。
「アンはね、あれはダメ、これをしろってうるさいんだよ?」
小さなほっぺたをプクっと膨らませてジャスパーが抗議する。
「ふふ…ジャスパー?アンの言う事は正しいことばかりよ?お城の中を走り回ったら危ないわ。誰かにぶつかるかもしれない。分かるでしょう?」
「…うん、わかるよ」
うつむきながらボソッとつぶやいた。
「いい子ね、ジャスパー。おやつ食べましょうか?」
「ほんと!?やったぁ!!」
ガーネットはぴょんぴょん跳ねながら喜ぶジャスパーの手を引いて歩き出した。
ジャスパーは今日習ったことを逐一身振り手振りで説明していて、その様子を愛おしそうな顔で見ながらガーネットは相槌を打っていた。
アンは幸せそうな親子を見ていた。
何も災いなんてなさそうな幸せそうな親子。
でも、その関係には秘密がある、とアンは確信している。
ジャスパーの大きな瞳は、濃い茶色。
ルーク様は漆黒の瞳で、姫様は朱色の瞳。
他の者達もルークも茶の瞳で生まれたジャスパーのことを不思議に思ったが、二人の瞳のミックスならあるのかもしれないとすぐに納得した。
でも、私は胸がドキッとした。
誰かとそっくりな瞳の色。それは…