最後の夜・前編-7
「ガーネット…」
頬を伝う涙をロイの無骨な指がぬぐった。
「…ロイ…私には守らなくてはいけない人たちがいるわ…」
窓の外から街の明かりが見える。朗らかな笑い声も僅かに聞こえる――
「私だって、素直に言葉にしたい…!でも、お願い。わかって…?」
ガーネットは両手で顔を覆って静かに泣いた。
想い続けてきた最愛の人に愛を告白されて、人生最良の瞬間だった。
でも、どう足掻いても決して一緒にはなれない…
庭師の息子と姫。
どうして私は街にいる娘ではないの?
どうして普通の娘に生まれなかったの?
街にいる娘に生まれる方がよっぽど簡単じゃない…
ロイはさめざめと泣くガーネットにかける言葉が見つからなかった。
ガーネットの想いが痛いほど伝わってくる。
ガーネットが自分を愛してくれていたら、この国から彼女をさらってしまおうと思っていた。
でも 、華奢な肩に背負うものが大きすぎて共に逃げようだなんて言えない。
背負うものの大きさが違いすぎた。
「…ガーネット…困らせて悪かった。そろそろ退散するよ」
想いを断ち切るように踵を返した。
窓を跨ぎ、梯子に足をかけるとガーネットが窓まで駆け寄ってきた。
「…ロイ…!」
「おやすみ、ガーネット」精一杯微笑んだ。
「…おやすみなさい」
ガーネットの苦しそうな顔を見ていられなくて目を逸らして梯子を折り始めた。
これが最後だろうな…
ガーネットに触れるのも、話をするのも…
「ロイ!待って!!」
声をかけられ上を向くと、ガーネットが風になびく長い髪を押さえながら必死な顔でこちらを覗きこんでいた。
「ねえ…明日もきてくれる…?」
願っても無い言葉だった。
触れることもできない。
結ばれることもない。
でも、最後の日まで共に過ごしたい――
ガーネットも同じ想いなんだと悟った。