最後の夜・前編-5
「まあ、可愛いわね、ロイ」
「男に可愛いなんて言うものじゃないよ、ガーネット。俺はもう子供じゃないんだ」
「…えぇ、そうね…」
精悍な顔。切れ長な濃い茶の瞳。服の上からでもほどよくついた筋肉が分かる。
浅黒い肌が野性味溢れるロイを表しているように見える。
街の女達が熱を上げているとどこからか聞いたことがあった――
よく分かる、と素直に思う。
「…ロイ、何か用があってきたんでしょう?」
なんとなく答えの分かる質問をした。
「……ガーネット。結婚、するのか?」
やっぱり…
心臓がドクンと大きな音をたてる。
「――ええ、するわ」
「好きなのか?ルーク王子のこと。ずいぶん年上じゃないか」
「…数えるくらいしか会ったことない人を好きなわけないじゃない!」
変に誤解されたくなくてつい大きな声で否定した。
「…でもそんな事は関係ないの。私にはこの国を守る義務があるのよ」
ロイだって世界の情勢はなんとなく理解していた。ガーネットが結婚する意味も分かる。
分かっていたのにガーネットの口から『結婚』という言葉を聞くと、ずっしりと鉛が胸に落ちたように苦しい。
「そうだよな…でもお前の口からそんな義務なんて事聞かされると俺は何もできなくなる――」
頭を掻いて困ったように笑った。
「ロイ…」
何もできなくなる…?
心臓が早鐘を打つようにドクドク鳴っている。
ロイの瞳に射すくめられたように動けない。
「ガーネット、俺は…」
――コツコツコツ…
「っ!!」
廊下に靴音が響き、段々と近くなってくる。
「アンよ!毎夜異常がないか部屋を見に来るの!!隠れなきゃ!」
部屋を見回したが、大きな男が隠れられるような所は何処にもない。
アンの靴音が間近に迫ってくる。
「あ、ガーネット!お前はとにかくベットに…!!うあっ!!」