最後の夜・前編-4
「部屋に入れてくれないのかい?」
「……いいわ」
少し離れてロイが窓を跨ぐのを黙って見ていた。
ロイは部屋に降り立つとガーネットに向き合って佇んだ。月明かりがぼんやりとロイの輪郭を照らしている。
ロイと言葉を交したのなんて何年ぶりだろう…?
こんなに近くで向き合うなんて何年ぶり…?
遠くからは見ていたけれど、こんなに見上げるほど大きくなっていたのね…
泣きたくなるのを唇を少し噛んで堪えた。
「ガーネット…久しぶりだな、こうして話すのは」
「えぇ、とても久しぶり…フフ…家族以外で私を呼び捨てにする人はロイだけよ」
ロイは当然とでも言いたげに片眉を上げて笑った。
「お前が産まれた日から知っているんだ」
「やだ!お猿さんみたいな頃の事なんて忘れてよ!」
「とても綺麗だったよ…ガーネットは。天使だと思った…」
「そんな…っ」
胸がきゅっと痛む。
憎まれ口叩いて私を泣かせたりしていたのに、いつの間にそんなに大人になったの?ロイ?
綺麗だなんて言ったことなかったじゃない――
「ガーネット、本当にお姫様のようになったな。あの頃はただの泣き虫の子供だったのに」
ロイが暗がりに光を放つプラチナブロンドにそっと触れるとガーネットは身体を硬直させた。
「本当に、綺麗だよ」
「…っ!」
ガーネットはハっとしたように息を呑んだ。触れられた髪が熱を持ったような気がする。
ロイの瞳には成長したガーネットが映る。
月明かりでもきめ細かな肌の白さが分かる。吸い込まれそうな瞳も、それを縁取る長いまつげの1本さえも…
細い肩紐だけのシンプルな寝巻きが身体の線を浮かび上がらせ、くっきりと浮き出た鎖骨、豊かに盛り上がる乳房、細くくびれた腰周りもあらわにする。
どうしようもなく神々しいガーネットをいますぐ抱きしめたいと心底思った。
「…ロイ…貴方は大人の男の人になった。でもその赤茶の猫毛は変わらないわね」
気詰まりな雰囲気を振り払うように明るい声を出した。
「…ああ。短いとまとまらなくて今はこんなだよ」
くるっと後ろを向くと、肩くらいの長さの髪を黒いリボンで束ねていた。