最後の夜・前編-3
国民すべてに愛されるガーネット姫の結婚話は瞬く間に小国に伝わり、国はお祝いムード一色になった。
街はきらびやかに飾りつけられ、毎夜のように酒盛りが開かれているようだった。
ロイは結婚話を知ってから何度目かの夜、決意を胸に夜中に家を抜け出した。
ガーネットは天蓋つきのベットに横たわり眠れない夜を過ごしていた。
あと3ヶ月も経てば自分が結婚するだなんて実感が湧かない…
2、3度会っただけのルーク王子との将来の展望がまったく見えない。
私はあの人の子を成すのよね…きっと…
「ロイ…」消え入りそうな声でつぶやいた。
もしもロイとだったら…?
ありえない考えに想いを馳せる…
ロイと結婚をし、子を成す…
きっと最高に素晴らしい家庭になる気がする。
毎朝ロイのキスで目を覚まし、子供たちに朝食を作る。
ご飯を食べたら家族で森に出かけて木苺を摘んでジャムを作り…
「ふふっ…」自嘲的な笑いがこみ上げた。
本当にありえない。
私がこの国の跡継ぎである限り。
私がこの国の跡継ぎじゃなくなる事くらいありえない。
そんな普通な暮らし、どう足掻いたって実現しないじゃない…
ガーネット、なんて馬鹿らしい夢見てるの?
溜め息をついてシーツにくるまった。
―ガタン
「!?」
窓の外から何やら音がした。
ここは2階。鳥でも窓にぶつかったのかしら?
ベットから降りて恐るおそる窓に近づいて下を覗き込む。
「アっ!!!」
心臓が止まりそうになった。
何故ならそこには鳥ではなく梯子を登って来るロイがいたから…
窓を開けて「ロイ!なにしてるの?!」と小声で叫んだ。
ロイはこちらを見上げながら微笑んだ。