最後の夜・前編-2
幸いルーク王子はガーネットをとても気に入ってくれて、高価な生地や宝石、熱烈な恋文をしょっちゅう送ってきた。
放浪していた為か博識で、とても賢く、大人の大人らしく優しかった。
この人になら、自分も、この国も任せられるとガーネットは思った。
両親に結婚をすると伝え、3ヶ月後に日取りが決まった。
アンが結婚を知ったその日にロイも父に聞かされた。
「ロイ、ガーネット様の結婚が決まったそうだよ」
「えっ?!結婚?!ガーネットが?」
ロイは木の枝の剪定の手を止め、凍りついたように固まった。
「様、だろう、ロイ。いくら幼いころからの知り合いだからと言って呼び捨てなんて…」
「親父!そんな事より本当なのか?結婚て…」
「もちろん。ハインケルが言っていたんだ。隣国のルーク王子が相手だそうだ。あの幼かった姫様ももうそんな御歳になったんだなあ…」
父が懐かしそうに昔話を語っていたが、ロイの耳には一言も入ってこなかった。
――ガーネットが…結婚…?
足元が崩れるような感覚。
胸を素手でにぎり潰されたように痛む。季節は春だというのに背中を汗が伝った。
ガーネットが産まれた日の事はいまでも鮮明に覚えている。
俺は当時3歳だったが、父に連れられ産まれたばかりのガーネットに会いに行った。
透けるような白雪のような肌、薔薇色の唇、宝石のような朱色の瞳――
天使がいる…そう思った。
思えばあの時にはすでに恋していたのかもしれない……
城に住み込みで働いていて、歳が近いこともあり幼い頃はよく二人でよく遊んだ。
懸命に俺に付いて来て、少し俺の姿が見えなくなると「ローイー!!」と泣きながら探していた。
俺を呼ぶ声が聴きたくて、あの泣き顔が見たくてわざと隠れていた…
歳を重ねるとガーネットには家庭教師がつき勉強や習い事をし、二人で遊ぶことはなくなった。
俺はただの庭師の息子でガーネットはこの国のお姫様…
住む世界が違うことは時が経つにつれ明確になり、会う機会もなく、話すこともできず、美しく成長していくガーネットを遠くからただ見つめることしかできなかった。
煌めく銀の髪にふれることも出来ない…
鈴のような声をそばで聴くことも出来ない…
つのるばかりの想いを持て余していた。
それなのに結婚するだなんて――