同級生-1
「佐藤くん。ちょっと生徒会室まで来てもらえるかしら?」
廊下で声を掛けて来たのは、生徒会長の綾瀬はるかさんだった。
生徒会長が僕になんの用事だろう?僕は、特に秀でたところもなければ、生徒会が取り締まる風紀を乱すこともない。どちらかと言えば、あまり目立たない生徒の一人だった。僕は、訳も分からずただ綾瀬さんについて行った。生徒会室に入ると、綾瀬さんは僕に詰めよるようにして話し始めた。
「あなた、私を見てたでしょう?」
あまりにも想定からかけ離れた言葉が綾瀬さんから飛び出した。
「ご、ごめん・・・・」
「今日だけじゃないわ。いつも私を見てるわね?」
「そ、それは・・・・」
「正直におっしゃい!」
「・・・・・・・・・」
「私のことが好きなの?」
「綾瀬さんが、あんまり綺麗だから・・・・」
「それだけ?」
「綾瀬さんは、綺麗で、気高くて、皆があこがれていると思うよ。」
「そんなことは聞きたくないわ。あなたはどうなの?私が好きなの?」
「・・・・・好き・・・・です。」
そう言わざるを得ない状況だった。
綾瀬さんは、どうしたいのだろう?
僕は、この場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
「そう・・・」
それは、一瞬の出来事だった。綾瀬さんの大きな瞳が僕の目を覗き込む。そして、その大きな瞳が閉じられると同時に、綾瀬さんの唇が僕の唇に重なっていた。
僕は、校門で綾瀬さんを待っていた。いつもと変わらぬ下校の風景を眺めていると、先ほどの出来事が夢のように思えてくる。綾瀬さんと一緒に帰ると約束したのが夢なら、綾瀬さんは現れないはずだ。
僕は、通り過ぎて行く生徒達の中に綾瀬さんの姿を探し求めていた。
綾瀬さんが校舎から出て来るのが見えた。綾瀬さんだけは、どんなに遠くても綾瀬さんだと分かる。周りの生徒とは違い、華があるのだ。僕は、綾瀬さんの優雅な姿にただただ見惚れていた。
「行きましょう。」
僕は、綾瀬さんと並んで歩き出した。綾瀬さんは、笑顔でもなく、かといって怒っているようでもなかった。僕は、先ほどの出来事と、一緒に帰ろうと誘われた理由を知りたかった。
「あの、綾瀬さん。どうして、僕を誘ってくれたの?」
「あなたが気に入ったのよ。だから、私の傍にいて欲しいの。
だめかしら。」
「そ、それは、光栄だけど、どうして僕なんだろう。」
「可愛いからよ。」
そう言われると、確かに僕は男らしくないし、容姿や言葉遣いも、女性的かもしれない。でも、可愛いとまで言われるのは、少しこそばゆい思いがした。
「僕、可愛いいかな?」
「無駄口は、いいの。黙ってついてらっしゃい。」
綾瀬さんの言葉には、逆らってはならないような重みがあった。
僕は、綾瀬さんの言葉に従い、黙って、綾瀬さんについていった。