生徒会へようこそ【MISSION"3"おばあちゃんを捜索せよ!】-16
「茶道教室から帰ってくるとね、いっつもかすみちゃんのこと教えてくれたんだよ」
そうなんだ。
おばあちゃんは毎回僕に名前を聞いてきてたけど、きっとあれはワザとだったんだ。
「おばあちゃんは…いっつも僕の名前を忘れたふりしてたんですね」
背中の上で、僕の狼狽え方を楽しんでいたのかもしれない。
「…うちのおばあちゃん、ちょっとお茶目さんなのよね」
くすくすと早羽さんが口に手をあてがって肩を揺らした。
おばあちゃんは元気なんだ。
僕が知りたかったのはただそれだけだ。
「早羽さん、僕らそろそろ帰ります。玄関先での立ち話もあれなんで」
僕は鞄を肩に掛け直した。
「えっ、おばあちゃんに会ってかないの?」
「いいのか、優。あんなに気にしていたではないか」
「うん。僕はおばあちゃんが元気ならそれでいいんだ。それに、来週になったら会えるから」
「…そうか」
宝さんもすっと後退して早羽さんに一礼する。
「来週から茶道教室も再開するって言ってたし、おばあちゃんもいつも通りに行くと思う」
本当に、来てくれてありがとう。
そう言って早羽さんは深く頭を下げた。
沈みかけた夕焼けは、燃えるように濃い朱色の光を放って、世界を包み込んでいた。
そんな中を歩く僕らの影は、前方に長く長く映されている。
「優、休み時間と別人みたいだ」
「そう?」
確かに心は晴れ晴れとしている。休み時間の僕の心がザラザラして、やたら引っかかるものだとしたら、今はゆで卵の白身みたいなツルンとした状態だろう。
「ああ。この世の終わりみたいな顔をしていたぞ」
…うっ、僕、そんな暗い顔してたんだ。
「優に暗い顔は似合わんな。少しおどおどしていても、笑っている方がいい」
………。
それは、宝さんも同じだよ。
と、言いたいのになかなかスムーズに声が出てこない。
笑った宝さんがどれだけ僕の心臓を暴れさせるか、本人は知らないんだ。
「……あ、う」
「優?」
「………………」
完全に言葉が出てこない。
普段、僕は宝さんとどんな話をしてたっけ。『普通の会話』が一番難しい。
えーと、えーっと…。
ああぁぁ!
頭が真っ白で何も思い浮かばない。