幻蝶(その1)-2
都心から離れた郊外の新興住宅地にボクの家はあった。
家のまわりの売れ残った宅地には、腰ほどまで伸びきった雑草が生えている。なぜか生活の気配
がしない街だった。人が住んでいるのかわからない真新しい家が点在した殺風景な風景だった。
まわりを雑草に覆われたボクの家は、コンクリートの地肌が褪せ、無機質な箱のような家だった。
外部からすべてを拒絶するような壁には、蔦がびっしりと絡まっていた。
美術の教師だったパパは、このモダンな家を建ててからすぐに交通事故で死んだ。
ボクはコンビニのバイトを終え、深夜に帰宅する。
静まりかえった駅から、家まで自転車で二十分ほどかかる。新興住宅地の中は、なぜかいつも人
の気配がしない。昼も夜も、歩いている人を見かけたことはない。雑草のはえた荒れ地と閉ざさ
れた家の寂寞とした風景が拡がっていた。
だれもいない家に帰るとボクはシャワーを浴びる。
鏡に映った自分の裸を眺める。今年でボクは二十七歳になる。昔から色白だった。童顔なので、
いつもまわりからは、女の子みたいだとからかわれたこともあった。ブルンとして萎えたボクの
ものは小さく、亀頭の先端が隠れるほどまで桜色の包皮で包まれていた。
そして…ボクのペニスは、ママ以外の女の人と交わったことはなかった…。
カップ麺を啜りながら、ボクは二時間ほど蝶の標本作りをやる。
中学時代から始めたボクの唯一の楽しみだった。ボクの家の地下室の壁には蝶の標本箱がぎっし
りと飾られている。そして、その中央の床には、人が入れられる棺桶ほどの、透明なプラスチッ
ク製の標本箱もある。
ほんとうはママがこの中に入るはずだったけど、今は空っぽだ。
蝶の展翅をするとき、ボクの腿の付け根には、ひたひたと欲情の疼きが迫ってくる。そんなとき、
もうひとつのボクの楽しみがフィギュアのアサちゃんだ。
…アサちゃん、だめじゃないか、こんなに濡らして…パンティがぐっしょりだよ…ほら、ボクが
着替えさせてあげるから…
ボクの大切なフィギュアの名前は、アサちゃんだ。
亜沙子さんにそっくり似ているこのフィギュアは、ずっとボクの宝物なのだ。蝶の標本作りのあ
とは、なぜか必ずボクはアサちゃんの肌に触れたくなる。
ボクはアサちゃんの衣服を脱がせる。もう、ずっとこんなことをしてあげている。
フィギュアのアサちゃんは、三十センチほどあるもので、肌触りが柔らかい。まるでまだ触れた
ことのない亜沙子さんの裸をなでているみたいで、ボクは、この肌触りを楽しみながら、何度と
なくオナニーをした。
恥丘の滑らかなふくらみから、あそこの溝へと続く部分はつるりとしていたが、柔らかい割れ目
は、微妙で奥深い翳りをもっている。
ボクはこのつるりとした性器の窪みを人差し指でなぞるのが好きだった。
いや…ほんとうは、その割れ目の花弁を、蝶の羽根のようにピンセットでひろげてあげたい。
そして、開いた性器の中の奥深い匂いを、舐めるように嗅ぎたい欲求にかられる。
おそらく亜沙子さんのあそこの桜色の割れ目からは、きっといい匂いがするにちがいないのだ。