JoiN〜EP.3〜-5
『もしもし・・・マネージャーさん?あの・・・さっきの話なんだけど・・・』
心臓が魔法で跳ね馬に変わったみたいに、強く跳ねた。
つ、遂にこの時が来たぞ。日比野直行、お前はよく頑張った。
人は誰しも幸せを掴み取る権利がある。
女には愛と幸せを運び続ける義務がある、その先には大きな喜びが待ってるんだ。
『私ね・・・』
こちらからは余計な発言はせず、栞菜の言葉を待った。
『・・・ドラマのお仕事、断ろうと思って・・・』
・・・・・・はい?いまなんとおっしゃいました栞菜ちゃん。
何故この流れでドラマの話をするのだ、しかも断るなんて。
そうだ、確か教えたっけ。どっきりだとか言って驚いてたな、思い出したぞ。
『さすがマネージャーさんだね、私が何を言うのか分かってたんでしょ』
「いや全然分からなかったぞ。いきなり言われても困るよ!」
『だってさっき、私から電話が来るの待ってるって言ったじゃない。早く言えみたいな事も言ってたよ』
それは告白タイムだと思ったからだ。
まさか俺に電話したのは、その話をする為だったのか?
参ったな・・・付き合うどころか、ちっとも嬉しくないお知らせだったとは。
「何でそうしたいと思ったんだ。せっかくいい話が来たんだぞ」
『・・・・・・・・・』
つい数時間前ははしゃいでたのに、このテンションの落ちっぷりはどうした。
急降下を通り越してバンジージャンプばりの落下だな。
栞菜は基本的にはよく笑ったりして感情がはっきりした性格なんだが、実は脆いところもある。
特に女はふとした事で落ち込んでしまうので、扱うのが難しいんだ。
「栞菜、どうしてか教えてくれないか。緊張するからか?」
『・・・うん。もうお仕事始めて半年なのにまだカメラ見るとガチガチになるし、全然慣れないから・・・』
「そんなもんだよ。何十年もキャリアのある大御所だって、撮られるのが好きじゃない人もいるんだぞ」
『でも、私には無理。ドラマは動くところも撮るんでしょ、もう絶対無理、動けないよ』
顔を見せる商売だが、撮られるのが好きじゃないタレントは意外に多い。
俺はデジカメだろうが携帯だろうが、プリクラだろうが撮られるのは大好きだ。
寧ろ鏡に映るだけでもいいから、いまいちその気持ちは理解できないがな。
まずいな、あまり下手な事は言えない。
いっそ口説いてしまおうか、と思ったが流石に考え直した。
能天気な俺でもここはそんな空気じゃないのは分かるし、何より栞菜の弱みに付け込むみたいで、プライドが許さない。