JoiN〜EP.2〜-3
「お、いたいた」
コンビニの前にいた栞菜がこちらに気付き手を振っている。
暑さの為か長い髪を結んで、いつもより少々活発に見えた。女は髪型で印象が変わりやすいな。
「おはよーマネージャーさん。暑いね〜」
冷えた車内にさっさと滑り込み、助手席にお尻を下ろした。
ぶら下がったストラップをじゃらじゃら鳴らして携帯を開く。また増えたんじゃないか?
「暑いなぁ。栞菜のせいだぞ、こんなに暑いのは」
「あっそう、でも謝らないもん」
こっちを見ず携帯のディスプレイに釘付けだった。
あるいは、また俺の話が始まったと思って目を合わさない様にしてるのかもな。
いいね、いつもの栞菜だ。お前はやはりこうでなくちゃ。簡単に俺に振り向いちゃつまらないからな。
「お前が俺を熱くさせるからさ。その横顔、実にセクシーだぞ。ほっぺを撫でてしまいたい」
「よそ見して事故起こさないでね。私は責任取れないから」
「おおう、そのクールな声もたまらなくセクシーだ。そしてエキサイティングだ、尚且つミステリアスなヴィーナスだ!」
「はいはい、よく出てくるね片仮名ばっかり」
「そして、色気があって興奮させてくれる、何よりも神秘的だ。栞菜はまさに女神だな!」
「同じ言葉繰り返してるだけじゃん。本当にさぁ事故は起こさないでよ」
まだ出会ったばかりの頃は、俺のノリについてこれずろくに返事も返ってこなかった。
今は何か言えばすぐに返ってくるから、口説き続けた甲斐があったってものだ。
何より、自由に話せるのは移動中くらいしか無いからな。
事務所でも現場でも、女が沢山いる。俺の愛が欲しくて待ってるんだ。
だから栞菜に愛を注げるのはこの芳香剤臭い車の中だけ。
まったくこの世は不条理だ。そして無粋だ。男と女が互いに歩み寄ろうとしているのに、ムード台無しじゃないか。
「今日も仕事が終わったら家に帰るだけだよな」
「そうだけど、それがマネージャーさんに関係あるの」
「前にインタビューで水族館に行きたいって言ってたろ。だから行こう」
「駄目、宿題あるの。先生怖いからちゃんとやらないと怒られるもん」
「そんなもの俺が片付けてやる。俺と栞菜の障害になる物は、何であろうが許さない」
栞菜は急ににっこりと笑いかけてきた。
さぞ嬉しいだろう、煩わしいものを愛する人に取り除いてもらえるんだからな。
「私は方程式とデートするの。そういう事でよろしくね」
滅多に無い、というわけでもないが普段の栞菜はあまり俺の前では笑わない。
だから、笑ってくれたのが嬉しくて、気が付いたら首を縦に振っていた。