JoiN〜EP.2〜-2
「立花さん、ねえ立花さんってば」
「まだ机に座って5分も経ってないよ、もうおしゃべり?少しは耐えなさい」
「喉渇きません?コーヒー買ってきましょうか。それともトマトジュースにしときます?」
「いらない。それより集中しなさい、分かった?日比野」
こうやって、明らかに話す相手や内容を間違えてしまう。
それくらい寂しくてたまらないのだ。
マネージャーになって良かったと思うのは、仕事で話すと楽しい人に多く会える事だな。
あとは後悔ばかりだ。寝る時間は無いわ、仕事は多い上に、会う人ほぼ全員に頭下げてばかりだわ、ろくに飯を食う時間も無いわで・・・
大体ガキの頃から机に向かった事なんて無いのに、デスクワークというのはは辛すぎる。
それで夏休みの宿題をぎりぎりまでやらなくて、最後の日に泣きながらやらされてたなぁ。
一秒がまるで一時間に感じる。早く過ぎろ、何もずっとこうしてなくてもいいんだ。
午後になれば栞菜を迎えに学校まで行ける、そこからが俺のターンの始まりだぜ。
「はい、えーその件に関しては現在話し合ってましてー・・・はい、すぐに・・・」
電話を切ったら間髪入れずにまたかかってきて、息つく暇も無さそうだ。
立花さんは電話を捌くのに精一杯みたいだな。
あと何時間か我慢すれば、栞菜に会える。待ってろよ、今日こそ俺の物にしてみせるからな。
「すいません、そろそろ時間なんで行って来ます」
行く前に一応栞菜に電話し迎えにいく旨を伝え、席を立った。
ずっと足を縛っていた見えない鎖から解放された気分だ。さあ、いまいくぞ栞菜!
「ちょっと待ちなさい日比野」
さっさとドアを開けようとしたら立花さんに呼び止められた。
何だよ、また何かお小言ですか?デートのお誘いなら嬉しいんですけど・・・
(こっち来なよ、もっと近く)
小声で手招きしてくるのが気になり、言われるままふらふらと吸い寄せられた。
(あんたさ、アイドルはやめといた方がいいよ。受付とか社員じゃないんだし)
またその話ですか。
マネージャーとアイドル、決して一緒になってはいけない壁がある、とおっしゃりたいのは分かります。
(ごめんなさい。上司のあなたに言われようと、俺、好きになっちゃいましたから)
(だから駄目だっての。あんたは良くても栞菜は新人だけど芸能人なんだよ。言ってる意味分かる?)
(分かってますよ、気を付けますから。じゃ行きますね)
まだ言い足りなさそうな顔を見ない様にして踵を返す。
もう何度も俺に注意したので、さすがにしつこく言ってくる事は無くなった。
栞菜は仕事がある時は午前中は授業に出て、午後になったら仕事に行くのが殆どだ。
学校に友達は結構いるらしく、アイドルになってから遊べる時間が少なくなったって寂しがってたな。
通ってる学校は事務所からはそんなに離れておらず、道が混んでなけりゃ20分もかからない。
アルバム一つを聴き終わる前には到着してしまう。