君の瞳に恋してる・U-3
静まった部屋には加持の書き物をする音だけが響いている。
海は髪が短くなった加持の後頭部を見つめた。
加持はいつも紅茶を淹れて海を迎えてくれる。
あの日から1週間、昼休みと放課後は毎日この準備室に通った。
他愛も無い話をして、先生はコーヒーを飲んであたしは紅茶を飲む。
そして先生が仕事をしているところを黙ってみていた。
先生が仕事を終えると学校から少し離れたコンビニで待ち合わせて車で送ってくれた。
それだけ。ただそれだけ。
先生はあたしに触れようとしなかった。
あたしは先生が望むなら身体だけの関係になっても良いと思ってたのに、指一本、触れなかった。
これじゃ他の子と変わらない。
どんなカタチでも先生の特別になりたい。
先生の人気が出てきた今、いつ自分と同じように告白する子が出てくるか分からない。
そうなったら先生はどうする?
あたしみたいに準備室に招き入れる?
好きな飲み物を用意してマグカップを用意する?
車で送る?
ねえ先生…どうする?
「――海さん、紅茶おかわり飲みますか?」加持が振り返った。
「海さん?」
驚いた顔をして立ち上がった。
「…へ?」
「どうしましたか?」
「え…なに…?」
「泣いてますよ?気づいてないんですか?」
「……」
海は頬を触ると確かに濡れていた。
加持は海のマグを受け取ると海に向き直った。
「海さん、どうしたんですか?」
「……」黙って首を振った。
「僕にも言えない事?」
「あ…たしは…別に……」
「別に?泣くような事が、別に?」
加持が海の腕を掴んで引き寄せた。