フォール-3
運命の日、膨れ上がる心臓を押さえながら、頑張って初めてビキニを着た。
「・・・俎板?」
何が起きたのか覚えてない。
ただひとつ覚えてるのは、プールに向かってヒーローみたいに、キックしたまま固まった自分の姿。
そして、ぷかりと浮いてる白目をむいた大の字の先輩・・・
言われるんじゃないかと思ってました。自分でも気にしてましたよ。
いつまで経っても隆起する兆しすら見られない、自分の胸をね・・・
由美も未紀も、俎板とは言われなかったけど、身体的特徴の指摘が原因でスピード破局だったらしい。
揃ってそういう彼氏が出来て、同じ時期に別れて、奇妙な縁を感じた。
そんな縁なんて嬉しくもなんとも無いけどね!
あの時のプールは今までで一番気まずかった。
お互いを腫れ物にさわるみたいな扱いで、肌にかく汗がじっとりとヘドロみたいに気持ち悪かったのを覚えている。
こんな形で友情を育みたくは無いよね。
それは互いに思ってたのか、またすぐに別の相手を見つけて、それなりに続いた。
完結じゃなくて進行形だ。でも最近会えてなくて、冗談抜きで過去形になりそう。
どうして、人は会ってもすぐ別れちゃうのかな。彼氏に限らず色んな人が・・・
・・・もう、誰も柚の名前は口に出さなかった。
弟がいるのは二人とも当然忘れたりしない。だけど、わざわざ話題にはしなかった。
その柚はというと、一応彼女というか話す子くらいはいるらしい。
でも、私みたいに誘うまではいかないのだ。
急げよ弟よ。人生は短い。気を抜いたら、時は加速する。
これも確か校長先生が言ってた様な・・・あ、中学のだっけ。
卒業したら進学し、大学生になる予定の私。もうあっという間に三年生だ。
受験勉強で遊ぶどころじゃない、まして友達や彼氏どころじゃないのに、何故かまたこのプールに来ていた。
隣には、すっかり成長した柚が座っている。
「来てくれてありがとう。いや、そんな大事な話じゃないんだよね」
家と言ってる事が違うぞ?
ひとつでも英単語を覚えなくちゃいかん姉上を、どうしてもといってつれてきたのは誰ぞ?
「こっち、急がなくていいから。自分のペースでいいよ」
などと言いながら早歩きですたすた進み、時折振り返ってくる。
まるで早く来いよと催促されてるみたいで少し困ってしまう。