夏の怖い話-1
彼は私達を仕留めようと狙っている。
私は小さくなって彼に怯えるしか無い。
暑苦しい熱気が私を包み込む。じんわりと額に汗が滲んだ。
怖い。
彼に捕まればタダでは済まないということは分かり切っている。
もう3人も犠牲者が出ているのだ。遅かれ早かれいずれ私も標的になる。
私たちは夏休みを利用してバーベキューに来ていた。
大学生になって初めての夏休み。車もある。
私たちは泊まり込みでバーベキューをしようということになった。
場所は少し離れた山中にある河辺。
女の子5人できゃあきゃあはしゃぎながらのバーベキューは楽しい思い出になるはずだったのだ。
「ッギャーッッ…!!」
あの沙羅の叫び声が聞こえるまでは…。
「キャァァァアアッッ!!」
急に耳をつんざくような悲鳴に体が跳ねた。
杏奈!?
私は振り返った。
少し離れた場所で、杏奈が顔を抑えてうずくまっている。その近くにはランタンが転がっていた。
ドッドッと心臓が早鐘を打ち始めた。
たった数分だけでも、杏奈を一人にしたのが間違いだった。
「杏奈!」
私は駆け寄って彼女の肩を抱く。
「…う…うぁ……」
弱々しい杏奈の声。
「大丈夫?どうしたの!?アン…っ!」
上げられた彼女の顔を見て私は息を飲んだ。
…目も当てられない。なんて無惨。
杏奈の顔は、もはや原型をとどめていない。
なぜこれで意識があるのかと不思議な程だ。
私はこれ以上見ていられなくて目を逸らした。
「尚…子…」
息も絶え絶えに杏奈が私の名前を呼ぶ。
「あい…つ…殺して…。私たちの、仇…お願い…」
「そんな、無理だよ!一人じゃ…何も…杏奈!?」
私の手の中で杏奈はぐったりとして動かなくなった。
「杏奈!杏奈ーッ!!」
どんなに呼んでも、彼女の意識が戻らないことは分かっていた。
数十分前まで、私たちはあれほど笑いあっていたのに。
どこで崩れてしまったんだろう。
もうここには私しかいなくなってしまった。
それほど、彼は残酷な奴なのだ。