恋を知りたい-6
「…先生。」
先生が通常の仕事に取り掛かったのをこっそり確認してから、私は準備室に入った。
先生は突然の呼びかけに驚いて、はっとした様子で顔を上げた。
「なんだ、ノックもしないで。」
「すみません、先生を驚かせたかったんです。」
私の言葉に先生は何か言おうと口を開いたが、私の手元に目をやり怪訝な顔になった。
「今日は…質問しに来たんじゃないのか。」
言われて、私は手ぶらであることに気づいた。
あ、また、鞄取りに行かなくちゃいけないのかぁ…教室戻りたくないな。
私がつい小さくため息をつくと、カタ、と微かな音がした。
「何か、あったのか…?」
……えっ
その声に驚いて顔を上げると、先生が仕事の手を止めて立ち上がり、私を心配そうに見ている。
「いえ、その…先生……」
その瞳があまりに優しくて…私の中に、抑えられない何かが込み上げてきた。
「先生に、一つお願いがあるんです、けど。」
「なんだよ、急に改まって。」
先生は、拍子抜けした様に首の後ろを掻いた。
---高橋、恋愛絡みで学校追い出されたんだよ---
…この人が…?
---菜美子…!---
…それは、誰…?
色んな声が私の中でぐるぐる回ってる。
だけど、どんなものよりも一番胸がしめつけられたのは、先生の額へのキスだった。
今でも熱く、私を混乱させる。
先生は大人だから、あのくらい何でもないのかもしれない。
でも私にとっては、すごく大変で、大きく心が揺さぶられることだったんだ。
先生のことが、すごく特別だから…。
「…今から一分間、目を閉じてじっとしててもらいたいんです。」
「はぁ?」
先生は更に困惑した顔になる。
「別にそれくらい良いけど…簡単過ぎてなんだか怖いな。」
苦笑すると、先生はゆっくり目を閉じた。
どきどき、と心臓が早くなる。