恋を知りたい-4
「そういえば、先生は先生、って伊藤がこの間言ってたな。」
『由香ちゃん』と書いてある上履きを履いた、伊藤さんの茶色い髪の毛を思い浮かべ、彼女の言葉を思い出す。
「聞いてたんですか?」
「聞こえたんだよ。
…あれ、どういう意味か教えてやろうか?」
「は?」
言ってることが分からなくて、私は口を開けたまま竹田君を見る。
「俺、知ってんだよね〜詩織が知りたい情報。」
そう言って、彼は再び身を乗り出した。
私が…知りたいことって?
「なぁ、知りたい?」
辺りを見回すと、周りで帰り支度をしていたクラスメートは、いつの間にか一人残らず帰ってしまっていた。
「詩織が一番知りたい…
…高橋の昔のハナシだよ。」
「な、んで…」
先生の、話…?
なんで竹田君が、そんなこと知ってるんだろ…。
知りたいけど…。
…でも、そんなの…
「高橋、前いた学校で、」
「…わーっ!」
突然大きな声を出した私を、竹田君は呆気にとられた顔で見る。
その表情は、すぐに不機嫌そうなものに変わった。
「…なんだよ、せっかく教えてやろうってのに。」
「ご、ごめんなさい、でも…。」
私は、少しきまりが悪くなって下を向く。
「先生のこと、今竹田君から聞いてしまうのは、なんだか罪悪感が…。」
口の中でもごもごと言葉を作る私を見る竹田君の瞳は、少しずつ、面白がるような企むような色を見せてきた。
「ちょっと耳貸せ。」
そう言われて、つい言葉のままに耳を向ける。
「高橋、恋愛絡みで学校追い出されたんだよ。」
「?!…やだっ!」
竹田君はニヤニヤと笑いながら、面白そうに私を眺めている。
「でも、詩織の耳は聞いちゃったよな?」
すとん、と椅子に座り、長い足を組んで目を細める。
落ち着き払った彼をはっきりと睨んで、私は教室を飛び出した。
こんなのに騙される方が間抜けなんだよ、という愉快そうな声が私の後ろから追いかけてくる。
私は思わず走り出した。