夏の怖い話-1
『深夜のトイレ』
その夜A君は、ずっと好きだった女の子をある心霊スポットに連れていった。
目的は、少しでも彼女との距離を縮めたかったからという単純なもの。
「ねえ、怖いよ」
「ここは外人墓地って言って、もっと上にある墓が怖いらしいよ」
「もう帰ろうよ」
「せっかく来たんだし、車でちょっとだけ通ってみようよ」
A君の予想通り、女の子はこの雰囲気ある霊スポットにとても怖がる態度を見せてきた。
何の音も雑音もまったく聞こえない不気味な静寂……それに、月明かりにうっすらと見えている無数の墓。
坂道を登っていき、官軍墓地の入り口あたりに車を止める。
A君は、もうちょっと彼女を怖がらせてから市内に戻ろうと思い、突然車のエンジンを止めた。
そして、さほど尿意は感じていなかったが、わざと『トイレいってくる』と言って車を降りた。
いまにも切れそうな電球に、チカチカと照らされている古びた公衆便所が前方に見える。
車からは30メートルばかし離れているだろうか。
A君は、彼女の怖がる様子を想像しながら、ひそかに笑みを浮かべながらトイレへと歩いていった。
車内で身を屈めながらジッとA君の帰りを待つ彼女。
A君がなかなか帰って来ない。
恐怖心がだんだん高ぶっていく。
念のためドアロックし、出来るだけ墓の方を見ないように俯きながら、ときおりチラッと前方のトイレへと眼を向ける。
A君がトイレに行ってから、もう30分は経とうとしていた。
「遅い……遅いよ、A君。もしかして、A君の身に何かあったんじゃ?」
恐怖と不安が頭の中を埋め尽くしていく。
彼女は腕時計を見ながらチラチラとトイレへ眼を向けた。
一時間が経過した。