夏の怖い話-11
「パアパ〜」
「うわああっ―――!!」
視線の主は、自分の愛娘でした。
たぶん、なかなか風呂から上がってこない僕を心配し、様子を見にきたんでしょう。
少しだけ開いたドアから、ちょこんと顔を覗かせている娘。
「もういいよ〜、もうこっち来ていいよ〜」
娘に言われ、僕は引き攣った顔で頬笑みながらそそくさと湯船から出ました。
そして水面と天井を見ないようにしながら素早く湯船の栓を抜き、その恐怖の場所から逃げるようにして飛び出しました。
あきらかに様子のおかしい僕を、キョトンとした顔で見ている嫁。
そんな嫁を尻目に、僕は娘に尋ねました。
「ねえ、怖い怖いがいるって言ってたでしょ? それって……おじいちゃん?」
「うんっ!」
「あっ……そ、そうだったんだ……」
「なんかね、なんか怖いってするんだよ」
「そ、そっか〜、怖いね……でもさ、シャワーのときはいないの?」
「シャワーのときはねえ、いないの。でねえ、お水を入れたら出てくるの」
頑なに湯船に水を張ることを嫌っていた娘……その理由を知り、僕は再びブルッと身体を震わせました。
極度の怖がりである嫁にはいっさい幽霊の話はせず、適当な理由を考えて引越しの話をすぐさま切り出した。
当たり前だが、突然の引越し話に嫁は渋い顔をした。
だが僕の固い決意に、嫁は渋々ながらも折れてくれた。
完全に引っ越すまではまだ何日間かあるが、湯船にお湯さえ張らなければ大丈夫。
それに、僕の入浴はいつも第六感を持つ娘と一緒だし、また何か変な事が起きればきっと教えてくれるだろう。
嫁は……とにかく残りの日まで、シャワーだけで入浴することを厳守してもらうしかない。
とにかく、これほど貴重で怖い体験をしたのは初めてでした。
もう二度と体験したくはありません。
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