熱帯夜-4
コンコン
「秀君?誰かいるの?」
奥さんの声だ。
やば…っ
「あー、テレビ見てただけ」
愛人野郎、改め¨秀君¨は犬でも追い払うように、あたしに向けてシッシッと手を動かした。
「約束守ってね」
できるだけ小声でそう伝えて、自分の部屋の窓とカーテンを閉めた。
「…あ、カーテン…」
さっき外れたフックが不格好にプランと垂れてる。
直さなきゃ…
「明日でいっか」
目が覚めちゃったな。
ベッドから下りてそのままキッチンに向かって冷蔵庫を開けた。ひんやりとした気持ちいい冷気がほてった身体を冷ましてくれる。
…愛人、か。
ほんと、あの子いくつだろう。26のあたしより若そうだったから、下手すりゃ10代?
奥さん、あの子の部屋に来てたな。最初から一緒に寝ればいいのに。
今頃あの二人…
「〜〜〜っ」
良からぬ想像をしてしまい、払拭するべく一番手前にあったミネラルウォーターを引っつかんで一気に飲み干した。
すぐ隣の部屋でそーゆう事されるのって嫌だな。
結局その日はリビングのソファで寝ることにした。
どこも暑いけど、2階よりはマシな気がする。
不倫なんて絶対してはいけない事。誰も得しない、正にハイリスクノーリターン。
だけど…
『そんな言い方するなよ!』
終始ニヤニヤしてた秀君が唯一真剣な表情になったあの顔と声が頭から離れない。
絶対好きになってはいけない相手を選んでしまった秀君が不憫に思えて仕方なかった。