熱帯夜-7
「あ、あの…舞美さん…」
仕事が一段落ついた時、アヤカがゆっくり近付いてきた。申し訳無さそうに目を伏せている。
「ん?」
「あの、ジュンさんが言ってたのが本当だとしたら…舞美さんは…」
アヤカはやっと頭の中の整理が付いたようだ。
今なら私の声も、きっと届く。
「うん、私は違う。…絶対に」
アヤカの目を見ながら一言一言に気持ちを込めた。
お願い、信じて欲しい。
お互いの視線が混じり合って、そして…。
「そう、ですよね」
アヤカが少し微笑んだ。
良かった…伝わった。
それも束の間、またアヤカは不安げに顔を歪めた。
「じゃあ…やっぱりカナさんが…?」
間違い無く、そうだろう。
「それは分からないけど…」
でも、肯定は出来ない。
アヤカにカナのことは話せない。もしカナの耳に入ったら、アヤカにまで…。
煮え切らない返事をする私の気持ちを察してか、アヤカは
「…分かりました。本っ当に、すみませんっ」
と言って、頭を下げた。
「も、もういいよっ。信じてもらえて嬉しかったから気にしないで…」
「……はい」
アヤカは顔を上げても、まだ浮かない顔をしていた。
「あたし『バラされた』ってことで頭いっぱいで何も考えてなかった…。舞美さんがそんなことするはず無いのに…」
アヤカに一言「好きな人の前で態度が変わる」と言えば、誰がと言わなくても、アヤカは勝手に犯人を導き出す。
カナはそれを狙ったんだ。
「なぁーんのお話してるんですかぁ?」
ビクッと体が跳ねた。
カナが私の後ろから急に表れた。
「…カナ」
「カナ…さん…」
アヤカの表情が強張る。
「さっきから見てましたよ。楽しそうに話してましたねぇ。カナもいれてくださぁい♪」
口元だけに笑みを浮かべてカナは私とアヤカを交互に見る。
「あ、あの…あたし、あの…」
─ウィン…。
その時、自動ドアが空いて三人のお客さんが入ってきた。続けて、また二人。
これはスタッフ全員が動かなければならない。