熱帯夜-2
今年入ってきた新人は男女二人ずつで四人。
アヤカとルイ。タカヒロとジュン。
アヤカとルイは同じ歳で同じ専門学校だったそうだ。
タカヒロは19歳の時に彼女達とは別の専門学校に入学したらしく、同期である彼女達より一つ年上だ。
そしてジュンは今年四年制の大学を卒業したという。美容師の勉強は通信で行っていたらしく、新人の中では最年長者だ。
そんな新人たちも二ヶ月も経てば、私の立ち位置にも気付き様々な情報を得るようになる。
「舞美さぁん、床、やっといてくれません?」
「あと、タオルもいいっすかぁ?」
ルイとタカヒロは最近付き合い始めたらしい。
早く仕事を終わらせたくて、ことあるごとに私に仕事を押し付ける。
「…いいよ、お疲れ様」
二人は腕を組みながら一番初めに店を出て行った。
溜め息を一つ零して、床を掃き始める。
「ちょっとナイですよね、あの二人…」
背後からそう呟く声が聞こえたので振り返ると、アヤカがモップを持って立っていた。
「アヤカちゃん。いいよ?私やるから」
「いいんです、手伝います。…舞美さん、どうなんですか?あの二人」
私が掃いた後からアヤカがモップを掛ける。
「…んー、どうって…。仕方無いんじゃない?」
今日はカナに呼び出されている。
カナの家へ行くのが一秒でも遅くなるなら、押し付けられる仕事も悪くないかもしれない。
「えー?そんなダメですよ。ルイとタカヒロ君もっと調子乗ってきますよ!」
むっと口を尖らせるアヤカ。
「ハハ、そうだね。今度、先輩として注意しとく」
アヤカは真面目な子だ。
私のことは色々聞いているだろうに、それを気にする様子もなく人懐っこい笑顔を向けてくれる。
だから、尚更ルイとタカヒロの態度が許せないのだろう。
「あたしからもルイに言っとくんで!」
「舞美さーん、タオル俺やっちゃいますねー」
アヤカとお喋りしていると、店の裏に繋がる通路から顔がひょっこりと出て来た。
もう一人の新人、ジュンだ。
「あ、ありがとー」
片手をあげて答えると、ジュンは「いえいえ」と八重歯を見せて顔を引っ込めた。
ジュンは誰にでも好かれるような、そんな雰囲気を纏った子だ。
「ジュンさん、素敵ですよねー」
ぽそりとアヤカが呟いた。
「えっ?」
確かに、彼は人当たりも良いのでスタッフ全員に好かれていた。
藤とも仲が良く、カナと三人でお喋りしているところを良く見掛ける。
「優しいし、大人だし」
「大人…あ、そっか。私の一つ下だから何も感じなかった」
「あたし的には全然大人なんですよ」
アヤカは少し頬を赤くしてぽーっと遠くを見つめていた。
が、はっとしたように周りをキョロキョロと見渡す。
気付けば、もう私たちしか残っていないようだった。
ジャーッと水を流す音が奥からするだけ。
おそらく、ジュンにこちらの声は聞こえていない。