ペンペン草とポテトサラダ-6
「私、不死だから死ねないんだよ。拳銃や剣で倉山君に撃たれたり刺されたりしても生きていたら、信じてもらえるかと思って。ほら、死なないっていうほうが解りやすいでしょ」
彼女の言っている事はどれも理解できるものではなかった。
低い橋から投身自殺を試みて、尻を濡らしていた人間の言葉なら尚更だ。
大体この場にあるのは、剣と銃ではなくて唐揚げ弁当とポテトサラダである。
「でも、ちょっと待てよ。お前死ねないって事は、自殺しても意味ないんじゃないのか」
頭に浮かんだ疑問をそのまま彼女にぶつける。
「うん。だからね、困ってるんだよ。今まで何度も試したけど死ねなかったよ。私は馬鹿だから結局、人の想像した死にかたでしか自殺できない。でもそれじゃあ、私は死ねないみたいなんだよ」
なんとも適当な設定の電波神様である。
思わずため息が漏れた。
「それで、俺にどうしろっていうんだ。言っておくけど俺はお前を殺すのなんて勘弁だし、ポテトサラダと餃子くらいしか作れないぞ」
「倉山君に、私の自殺の方法を考えて欲しいって言ったらどうする」
「嫌に決まってるだろ。自殺幇助罪とかいうので俺も捕まっちまうし、自殺したいなんて言ってるやつを手伝う奴なんてそうそういねえよ」
「……そっか。やっぱりそうだよね。ごめんね、こんな話を聞かせちゃって。私、一人で頑張って死んでみるよ。倉山君はいつもおいしいポテトサラダを作ってくれてたから、最後に聞いてもらいたかっただけだしね。明日から違う町でまた頑張って死んでみるよ」
「ま、まて。なんだよ、それじゃあ俺がまるでお前を見殺しにしてるみたいじゃないか」
「違うよ、倉山君は悪くないよ」
彼女はうつむき気味に視線を逸らして、割り箸をカチカチとすり合わせていた。
どう見ても俺のせいで、違う町で死にますと言った風な言い草と態度じゃないか。
「ちなみにお前、今までどんな死に方を体験して死ねてないんだ」
「今まで色んな町を渡り歩いて、色んな死に方を聞いて実行してきたけど、一度も死ねてないよ」
「具体的には、どんな感じなんだ」
「この町に来る前だと、温泉に入ると死ねるって聞いたから入ったし、温泉まんじゅうを食べると死ねるっておばさんが教えてくれたから食べたけど駄目だったよ」
それは、ただの旅行ではないだろうか。
恐らく、この少女は町々を旅しながらこうやって適当な人々に、このような話をふっかけていたのだろう。
こんな事を聞かれた人々は温泉を紹介したり、まんじゅうを食わしたりと、この女が無知なのを良い事に適当にその場しのぎでいいくるめて死なせないようにしてきたのじゃないか。
それにしても、温泉に入って死んだりまんじゅう食って死ぬという与太話を本気で信じるなんて、よほど馬鹿なのか、それとも本物の馬鹿な神様なのか。
「あ、でもね。高い橋から飛び降りたりもしたけどやっぱり死ねなかったよ。だから次の町に行ったら、もっと高い橋を見つけて飛び降りてみるつもり」
そう言って微笑する彼女。どうやら次は本気らしい。こいつの頭の中には投身しかないのだろうか。
こめかみに手を当てる事、約三秒。
俺の頭の中に、全ての条件を満たす思考が電光石火の如く駆け抜けた。