ペンペン草とポテトサラダ-5
「倉山君の名前はお弁当屋さんのエプロンに名前がついてたから知ってたよ。店長が烏丸さん、大学生のお姉さんが烏丸日向さん、もう一人の人が長谷川さんだよね。倉山君のポテトサラダ、私もここのハト達も大好きなんだよ」
間違いない。本物の頭のおかしい人だった。
もはや俺の名前を知っている事や、ポテトサラダの事など、どうでもいい。
問題なのは、彼女が口にしている言葉の意味不明さと、それを真顔で語る彼女の荒唐無稽さだ。
俺は笑った。
「わかった、お前馬鹿だろ」
彼女は自嘲した。
「馬鹿だよね。だからこんな世界を創造しちゃったんだもの。でも大丈夫、私が死ねば世界は終わるよ。そうすれば次は絶対皆が幸せになれる世界を作るよ」
約束するよと付け足して、彼女は微笑んでいた。
俺は更に笑った。
「意味がわからねえ。お前が神様だって言うのかよ?」
「そうだよ」
「お前が死ぬとこの世界が終って、新しい世界の創造が始まるって事か?」
「そうだよ」
生唾を飲みながら俺は思った。
これは間違いなく何かの電波にあてられたか、精神洗脳をされた可愛そうな少女なのだと。
「何か証拠を見せたほうがいい?」
彼女はそう口にすると、ベンチから立ちあがって俺の肩に手をそっと置く。
俺は急いで彼女の手をはらった。
「やめろ、俺の体に謎の電波を送って洗脳するな」
「大丈夫だよ。私は馬鹿だから人の想像力や記憶を頼りにしないと、何かを生み出せないんだよ。他の皆は最初から創造したけれど私は馬鹿だったから。だから倉山君が好きな武器なんかを想像して見せてよ。それで私を殺してみて」
ついに平日の昼下がりの公園で物騒な事を言い出しやがった。
俺は数歩後ずさりして、首を前後に振りながら哀願した。
「わかった、わかったよ。お前は神様だ。平日の昼間から学校にも行かず仕事もせず、弁当とポテトサラダ食ってるけど神様だ。だからもう、家で静かにしててくれ」
「信じてくれるの?」
彼女は首を傾けながら俺の顔を覗き込む。
俺は黙ってもう一度頷いた。これぽっちも信じてはいないが、下手に刺激するとまた殺してくれだの言いだす可能性がある。