ペンペン草とポテトサラダ-4
あの騒動から数日たった今日、俺は彼女と一緒に公園にいた。
俺の休憩時間に弁当を買いにきた彼女が、俺に話があるから公園に来てくれと店長に伝言を残したらしい。
橋を渡った先の公園。平日の昼下がりのその場所に彼女はいた。
いつもと同じ、薄手のパーカーにジーンズと帽子という出で立ちだ。
ベンチに腰掛けて、さんさんと降り注ぐ太陽の日差しを背にしてハトに囲まれながら、唐揚げ弁当とポテトサラダを食べているようだった。
「なんか用か?」
それとなく彼女の横に立って俺は口を開いた。
彼女は俺を一瞥し、ハトにポテトサラダをやりながら答える。
「来てくれないかと思った」
自嘲を含んだ彼女の物いいは、この間の騒動を気にしての発言なのだろうか。
だとしたら下手に刺激するのはまずい。
俺のせいで死なれたりしたら目覚めが悪いどころの話じゃない。
俺が来ないせいでまた自殺未遂とかされたらたまったもんじゃない、と喉まで出かかっていた言葉を飲み込む。
できるだけソフトかつ、彼女を刺激しない優しい言葉をかけよう、さぁいくぜ。
「俺が来ないせいで、また自殺未遂とかされたらたまったもんじゃないからさ」
だが飲み込みきれていなかったらしく、そのまま口から優しくない台詞が飛び出していた。
「ごめんね。でも私死ななきゃいけないから。倉山君のポテトサラダ好きだったから伝えておこうと思って」
全く了見は掴めない返答ではあったが、どうやらそれほど彼女を刺激していなかったらしい。
安堵の吐息をひとつ。
「この間もそうだけど、なんで死のうとするんだよ。確かに世の中は思い通りにいかないし、世間は暗い事ばっかりだけど生きてりゃそれなりに良い事もあるだろ。それになんで俺の名前しってるんだ。ついでに俺を呼んだのは俺のポテトサラダが好きだからかよ」
一息で言いたい事を伝えてやった。
「私が、この世界を創造したからだよ。だから私が死なないと、この壊れた世界を最初からやり直せないの。私は皆が幸せに暮らせる世界を作りたかったけど、倉山君のいうように思うようにいかなかったの。だからやり直す為に私は死ななきゃならない。皆が思い通りに暮らせる世界を作りたいから」
彼女はそこで間を置くように、掌にのせたポテトサラダをハトに食べさせる。
どこか人を小馬鹿にした彼女の言葉を、更に陳腐なものと印象づけるようにハトが鳴いた。