ペンペン草とポテトサラダ-3
ほどなくして完成した唐揚げ弁当とポテトサラダを持って、俺は二階の休憩室横にある店長と日向ちゃんの住居に向かった。
休憩室は元々倉庫であり、その横にあるのが住居である。
実質ドアを一枚挟んでの位置なのでインターホンなどない。
木製のドアをノックすると、日向ちゃんの声がドア越しに聞こえた。
「父さん? 倉山君?」
「俺だけど、弁当持ってきたよ。店長は下で店番」
「どうぞ」
日向ちゃんは笑いながらそう言って、ドアを開けてくれた。
初めて足を踏み入れた店長と日向ちゃんの住居は、外から見るよりは広い部屋であったらしく生活臭が残るキッチンがあり、部屋もいくつかあるようだった。
テレビと料理の本がすし詰めになっている本棚がある殺風景な居間と思わしき部屋の端に、彼女はいた。
日向ちゃんの衣服に身を包み、所謂女の子座りをして俯いている。
彼女の前に唐揚げ弁当とポテトサラダを置いて、俺もその場に腰をおろした。
「あ、あのさ、これ俺と店長が作った唐揚げ弁当とポテトサラダ。唐揚げ弁当のほうが店長で、ポテトサラダは俺が作ってるんだ。腹減ってるだろ、食べろよ」
居間の窓際に設置された扇風機の起動音だけが虚しく響く。
彼女からの返答はない。
「いつも買ってくれてただろ、俺が作ってたんだぜポテトサラダ。美味かっただろ、あとギョウザも焼けるんだぜ」
彼女から返答はない。
俺は一人で笑いながら続けた。
「唐揚げ弁当選んでたのは正解だな。店長、揚げ物以外はからきし駄目だからさ」
やはり彼女から返答はない。
元々返答を期待するような言葉でもないし、俺の言葉に意味なんてない。その場しのぎの意味のない言葉の羅列だ。
彼女はなにも言わない。かわりに、唐揚げ弁当とポテトサラダの容器を開き、割り箸を手に取る。
一口大に割いたポテトサラダを口に運び、よく咀嚼して飲み込む。それはもう良く噛んで食べた。
唐揚げを齧り、白米を口に含み、ポテトサラダも食べる。
唐突に泣き出しながら、食べながら、それらの動作を繰り返すものだから当然むせていた。
「僕、下から飲み物取ってくるね」
日向ちゃんは、そう言って下に降りて行った。
残された俺は泣きじゃくりながら唐揚げ弁当とポテトサラダを食べる彼女を見つつ、少しだけ安堵する。
やはり俺のポテトサラダと店長の唐揚げ弁当は最強だった。
自殺を決意した少女の心の氷を見事に溶かしてみせた。
彼女は泣きながら言った。
「明日は、絶対死ぬね」
「いや、なんでそうなるんだ」
俺は頭を抱えて卒倒した。