恋愛下手な俺。-2
「別に、ためてないもん」
美佳は、ガムシロップたっぷりのミルクティをストローでくるくるとかき混ぜながら頬を少しだけ膨らませた。
美佳はモテる。
顔も可愛いし、性格もなつっこく、とっつきやすいからだろうか。
高校生になってからはもう15人以上に告白されている。
高校に入ってすぐ、初めて「告白された」と聞いた時はさすがに動揺したが、こう何度もあるともはや日常茶飯事だ。
なんの危機感もない。
美佳は誰の告白にも応える気はなさそうだし。
…だから、俺も行動に移せずにいるのだけど。
「で?誰なの?」
哲がもう1度問うと、美佳はやっとその名前を口にした。
「五十嵐先輩。」
「え?」
「え」と「げ」の間のような音を、俺も哲も同時に発してしまった。
「五十嵐って…あの五十嵐先輩?」
「そう、あの五十嵐先輩」
「美佳が、ずっとかっこいいって言ってた?」
「うん」
美佳は、落ち着いた様子で、ミルクティを一口飲む。
隣の哲が俺の膝を叩いた。
「どうするんだよ」と言いたいのだろう。
俺は、目の前のアイスティで喉を潤してから、美佳を見つめる。
「み…美佳は、どうしようと思ってんの?」
「どうしようって…五十嵐先輩は、ずっと憧れてたけど…。
憧れと、好きは違うんだよ。」
哲は「なあんだ」と言ってまたズズズとストローを吸った。
美佳も、氷をカランと鳴らす。
そして、コップにかいた汗を指でふき取りながら、俺のほうを見た。
「耕貴。
もし、あたしが五十嵐先輩と付き合ったらどうする?」
「え?」
「え?じゃなくて。
どうする?」
俺の顔真似も混ぜながら、美佳は言う。
どうするって言われても…
「好きなら、付き合えばいいと思う」
それから、美佳と五十嵐先輩は付き合いだした。
「美佳いるー?」
小さな「キャー」という女子の黄色い声があちらこちらから聞こえる。
五十嵐先輩だ。
「ちょっ、准!教室には来ないでって言ったじゃん!」
そう言って、美佳は先輩に駆け寄っていった。
あの日、駅前の珈琲屋で3人で話して以来、美佳は俺と目も合わせてくれない。
哲に言わせれば「どう考えてもお前が悪い」らしいが、あの時俺は自分の思った事を正直に言ったまでだ。