警部補 少年係-4
〈リビングにて〉
「マイケルが死んでからもう1年か…。」
山田がテレビを見ながらつぶやく。
有名なマイケルという歌手が死んでから1年になるので追悼ライブをやっているのだ。
「天才は早く死んでしまう人が多いなぁ〜。」
山田は言う。
「じゃ〜エジソンも?」
と妻。
(家族一同、大爆笑。)
「それは本当の天才やろ。(笑)」
山田が思わず突っ込む。
このような会話が家に帰るとたえない。仕事の出来事も頭から吹っ飛びそうだ。
交番や刑事課勤務をへて、現在は少年課に配属されている。大きな事件があれば、休みの日の夜中でも呼び出しの電話がなる。夏休みなど子どもが長期休みの日は絶対に休めない。海外旅行には行けない。休日とは自宅待機の別名。おまけに帰宅用のタクシー代も自腹だ。終電などとても間に合わない。仕方なく署で一夜を明かすことになる。刑事はハードなわりにはお金がないのだ。署に設置されている柔剣道用の道場で布団を敷いて寝る。自分の子どもよりも道に迷った他人の子、というのが現状だ。大阪の中でも治安がいい街にある高級住宅街を買った、というのが唯一の罪滅ぼしである。しかし、家族はこんな僕のことを理解してくれている。
妻とは18年前に知り合った。当時妻は看護士をしていて、僕は刑事課に配属されたばかりの頃だった。仕事中に一目惚れし、一年半ぐらい付き合って結婚した。プロポーズしたのは僕の方だ。今は息子と娘を授かり何とか主婦の妻が家庭をやりくりしている。
無事に1週間の休暇が終わり、署に戻ると一通の手紙が机に置いてあった。
〈山田刑事へ
3年前お世話になった鈴木林太郎です。(え〜と。あっ!あの時の。)今は少年院を出て住み込みで働いています。刑事さんはどうしてますか?きっと今も3年前の僕のよう な人たちを救っていることだと思います。あの時は強盗という大変な罪を犯しながら、なかなか認めずにいました。正直、嘘をつき続けるのは辛かったです。僕が嘘をついている時、今考えると刑事さんは最初から全部見通していたのだと思います。どのような嘘をつくのか、どのように伝えたらばれているということが分かるのか……。すごく恥ずかしい話ですが。すみません。本当にたくさんの人に迷惑をかけてしまいました。
僕は来年成人式を迎えます。誠実で偽りのない大人になります。
あの時は本当にありがとうございました。
鈴木林太郎より〉
これからもしばらくは過酷かも知れないが応援してる。そして成人おめでとう!
普段は役者であっても、この時ばかりは涙が出る。刑事でよかったと思える瞬間だ。でも返事はあえて書かない。自立してほしいからだ。事の重大さというものは年を重ねるごとに分かるものだ。いかに軽率な行為だったか。もう少しよく考えれば思いとどまれたかも知れない。でも彼にとっては、このような手段でしか成長出来る環境がなかったのかも知れない。残酷だが現実だ。
感極まっている時間はそんなになく、事件が飛び込む。