警部補 少年係-2
「黒糖パン230円に缶コーヒー1本。お腹すいてんの?」
「別に。何となく食べたかっただけ。」
「何となく。お金使いたくなかったん?」(少年の所持金は500円だった。)
「……。」
「コンビニ行く前はどこで何してたん?」
「塾。」
「ほぉ〜勉強か。」
「……。」
「いつから行きだしたん?塾。」
「高1…部活したかったぁ〜…。」(つぶやく少年。)
「部活…。中学までは何かやってたん?」
「水泳。」
「水泳。高校になっても続けたかったけど……。」(山田。)
「けど、おかん(お母さん)がやめろって。」(悲しげな表情をする少年。)
「そうかぁ〜。それは辛いなぁ〜。」
(少し間をおく。)
「でもな、だからって、コンビニの商品盗んだりしていいん?」(少しきつめの口調で言う。)
(首を横に振る少年。)
「なっ。あかんことやろ。」
(うなずく少年。)
「黒糖パンと缶コーヒー。義一君にとってはたかが330円かも知れへん。でもな、コンビニで働いてる人らにとってみたらちゃう(違う)。汗と水流して命がけで売ってんねん。一つ一つの商品。義一君も働いたら分かると思うけど。」(穏やかな口調で諭す。)
「……。」
「もうやらへんて、約束してくれる?」
「うん。」
「よし、出来るな。じゃ〜今日はもう遅いし明日、反省文書いてもらう。いいなっ。」
(うなずく少年。)
「今日は一日署に泊まってもらう。明日になったら帰れるし、それまでに自分のやったこと考えて、しっかり反省しなさい。」
「泊まり?」
「うん。泊まりや。反省するんやで。」
そう言い残して少年を留置場へ送り出す。(看守に引き渡す。)
補導や犯罪歴はなく成績も上の方。無遅刻無欠席でおとなしくてまじめ。事件を起こした今日もいつも通り学校にも塾にも行っていた。動機は塾でのストレス。ここまで彼を追い詰めたのは何だろう?山田たち捜査員は考える。家庭環境などを知るために親や学校から話しを聞く。「最近、少年に変わったことはありませんでしたか?」と尋ねても、ほとんど返ってくる答えは「ありません。」だ。ちゃんと向き合う気がないのか、気付いていないのか、真相は分からない。しかし、今回の事件は重大な犯罪を犯す前兆かも知れない。そうでなくても、何らかのサインを発しているのだから、大人がしっかりと受け止めなければならない。