警部補 少年係-10
「本当に犯人見たか娘さんに確認したいんで、後日家伺わせてもらえますか?」
「はい。土曜か日曜になると思いますが、主人と相談します。」
「じゃ〜明日か明後日でもお電話下さい。」
「失礼ですが、お名前は?」
「山田です。」
「山田さん、ですね。後日、電話します。」
「はい。お待ちしてます。」
ガチャ(電話を切る音。)
下中巡査部長をはじめとする数人の刑事と会話。
「夏浦瑠璃子、15歳。海空七学院って私学やな?」
「多分そうですね。」
「確か女子中。」
この少年にも補導や犯罪歴はなし。録音した声を聞き直してみると、犯人についてしゃべっているところは、抑揚が一定している。自信満々だ。しかし、疑問点はいくつかある。
次の日、学校がある時間帯を狙って電話してみる。瑠璃子さんは学校に行っている、という回答だ。土曜日に下中と家に行くことになった。もちろん例の顔写真を持って。
家まで下見をしに行く。言っている犯人の名前と顔が一致しなければ署まで連れていくためだ。ただ、逮捕はしない可能性が大きい。補導か厳重注意だ。出来心か?少年は地域の回覧板を見て通報してきているようだ。母親からの事情聴取や回覧板入手で予想出来る。斎藤安行には100万円の懸賞金がかけられているが、回覧板にはそのことが書かれていない。《ピン!ときたら110番》という標語を見て、一一〇番したのだろうか?
―土曜日の午後―
電話を入れてから、夏浦瑠璃子の自宅に向かう。私服姿に覆面パトカー。刑事は制服と私服をTPO(時間・場所・場合)により使い分けるのが原則だ。今回は、上下灰色のスーツ姿に変装してビジネスマンを装う。警察官の七つ道具である、警察手帳・無線機・拳銃・捕縄・手錠・警笛・警棒(黒色の折りたたみ式)とメモ用紙・黒ペンに録音機を持って、いざ出発。運転手は部下の下中。山田は後部座席に座る。高成市は隣接する市で日陰ヶ丘までは20分弱かかる。雲一つ無い天気だが、空気はどこか淀んでいる。
14時30分到着。無線で署に連絡をする。録音開始。
閑静な住宅街にある少し大きめの真白な一軒家だ。チャイムを鳴らすと犬が吠える。クリーム色の大型犬だ。何の種類だろう?サンルームが犬の部屋になっている。6帖ほどだろうか。すごく大事にしている様子が伺える。夏浦瑠璃子の父親が出てくる。白い門を入り階段を数段上がって、白いドアの中に案内されて玄関に入る。一般に人の家に行ったときはここでコートを脱ぐのが礼儀だが、私服警官はそんなこと出来ない。なぜならコート中には拳銃を忍ばせているからだ。