【イムラヴァ:二部】三章:悪魔と狐-18
宿屋に戻ると、レナードもアランも一言も口を利かずにそれぞれの布団に潜り込んだ。アラスデアは、アランの服に染み付いた臭いを控えめにかぐと、少したじろいだようだった。けれど、それを口には出さず、質問もせず、あくまでも忠実にアランの隣に横になった。やがてアラスデアは規則正しい寝息を立て始めたが、アランは眠る気にもなれなかった。窓から差し込む月明かりがあまりに眩しく、カーテンを引いても、布地越しに差し込んでくる白い明かりを遮ることは出来なかった。
「レナード」布団の中に入って数時間たった頃、アランは言った。
「何だ」レナードはすぐに返事をした。眠っていないのはアランだけではなかったのだ。
「あの子は……?」
「明日、夜が明ける前にここを発つ」レナードは言った。「最後まできちんとしてやらないといけない」
「わかった」アランはその夜、彼女は一睡もしなかった。眠ったら、悪夢を見る事は分かっていた。それは、あの娘が死んでしまったと言うことよりも明らかだった。耳慣れない祈りの言葉が聞こえたような気がしたが、それすらも良く覚えていない。