想-white&black-M-9
「私別にそんなつもりじゃ……。ただ、楓さんが風邪をひいちゃうんじゃないかって心配で」
「心配? 俺を?」
「でも私にそんな風に思われても迷惑だろうと思って……」
「…………」
何か不思議なものを見るような目でじっと私を見つめてくるヘイゼルの瞳。
あまりに見つめられ逸らすことすらできずにいると、なぜか突然楓さんがふっと笑みを漏らした。
「お前って変な女だな」
滅多に見ることのない穏やかな笑顔に心臓が震える。
こんな風に笑えるのかと思わず見とれてしまった。
「とにかく風呂に入らないとな。お前こそ風邪をひくぞ」
「え?」
「こんなに冷えてるじゃないか」
顎を掴んでいた指が不意に頬を撫でる。
確かに身体は冷え切っていたがそれ以上に冷たい指先に今更気付く。
「楓さんこそ、冷たいです」
「……心配するな。行くぞ」
ようやく最近になって見慣れた浴室は、一般家庭の何倍も広く常に一流ホテル並に綺麗に磨かれていた。
その室内にはいつも華やかでリラックスできる香りが漂う。
自分達の部屋以外にも各部屋にそれぞれ泊まり客のための浴室は付いているが、広々としたこの浴室で入るのは格別にいい気分になる。
家にいながらにして高級ホテルにいるようなものだ。
ただ初めは見たことのない設備や豪華さに気後れしてしまい、慣れるまでにはしばらく時間がかかってしまったこともある。
英がその辺の富豪とは訳が違うと思っていたが、それは全てにおいて私の今までの常識や感覚を逸脱していた。
金銭感覚から考え方、生活や周りの環境など未だに驚かされることも多くしばらくは慣れそうにない。
「何をしている。早く来い」
「え?」
ぼんやりと考え事をしていると、現実に引き戻されるように楓さんの声で我に返った。
すると突然楓さんは何の前触れもなく着ていた服を脱ぎ始める。
「な……っ」
躊躇いもなく全て脱ぎ去ると腰にタオルを巻き付けてそのまま私の前に立ちはだかる。
高い身長に長い手足、無駄のない均整のとれた身体は思わず目を惹きつけた。
「お前も脱ぐんだ」
「えっ。まさか一緒に入る気ですか」
「当たり前だろう。」
まるでそれが当然のごとく言い放たれる。
その表情は私が困惑することを見越しているのか、唇に愉悦の笑みを浮かべていた。