想-white&black-M-8
「楓様に……花音様? お二人ともどうされたのですか」
中に入ると理人さんがびしょ濡れになった私達を見て目を見開く。
それもそうだろう。
こんな雨の中、髪や服から滴るほど濡れて外から帰ってくるのを見たら誰だって驚く。
だがそんな理人さんに構わず楓さんは普段と変わらず落ち着き払った口調で指示をする。
「ちょっと雨に濡れただけだ。気にすることはない。あと風呂に入るから用意するように伝えておけ」
「かしこまりました」
理人さんも心得たようにそれ以上は何も言わず軽く一礼をしてその場を後にした。
「すみません。私のせいで楓さんまで」
屋敷の中に入ってから改めて見る楓さんの姿に次第に申し訳なさが先立っていった。
雨に濡れた髪は更に黒を深く際立たせ、白い肌を伝う滴が妙に彼を艶っぽく見せる。
肌に張り付いた白のシャツが透けて楓さんの身体をくっきりと見せつけられ、あまりの色香に直視することができなくなってしまう。
そのことに気付いてはいないのか、濡れた髪をかき上げながらじろりと私を見下ろした。
「俺を見くびるな。こんなことくらいで参るような柔な作りはしてないんでな」
「でもこんなに濡れてしまってはやっぱり……」
心配だ、と言いかけて口を噤んだ。
そんなことを言ってもきっと呆れられるだけに違いない。
ただ風邪をひかないか心配なだけなのだが、それすら鬱陶しく思われるだろう。
しかしそんな私に楓さんは眉をひそめた。
「何だ。何か言いたいことがあるならはっきり言えばいいだろう」
「いえ、あの、何でもないんです。気にしないで下さい」
そう答えると楓さんはますます不機嫌そうな表情を浮かべ舌を打つと、私の顎を長い指で掴み上げた。
「うぅ……っ」
「気にするなと言うことは気にしてほしいと言っているようなものだぞ。分かっててやっているのか?」
そのままぐっと顔を引き寄せられたはずみで楓さんの髪から落ちた雫が私の頬で跳ねた。