想-white&black-M-7
悲しくて、悲しくて。
ただ片想いを抱えているだけなら耐えられたかもしれないが、その相手に蔑まれ嫌われるのはとてもじゃないが耐え難く苦しいものだった。
強く掴まれてる手首が痛い。
雨に晒されて身体が寒い。
それより何より、楓さんの言葉一つで傷つく心が辛い。
こんなことなら好きになんてならなければ良かった。
嫌いなままでいさせてくれたらどんなに楽だったんだろう。
彼への想いを自覚してから幾度そう願ったか知れない。
だが既にその想いをごまかすには手遅れのところまできてしまっている。
側にいたいのに、側にいることが辛い。
やり場のない想いだけが宙を彷徨っているようだ。
どうしたらいいのか誰か教えてほしい。
「お前、泣いているのか?」
視界が溢れた涙と雨で滲んだ頃、どこか驚いたような声が降ってきた。
強く降る雨は頬を流れ落ちる涙を上手く隠してくれていると思っていたのに、楓さんに気付かれてしまったようだ。
だが泣いていたことを理由に優しくなんかされたくなくて、無駄だと分かっていながらも顔伏せる。
「泣いてなんかいません……っ」
「下手な嘘をつくな。なぜお前が泣くんだ」
私なりの精一杯の強がりも彼の前ではあっさりと見抜かれてしまう。
「俺の言ったことがそんなに悔しかったのか? それなら誤解されるようなことはするな」
思いがけず穏やかな声に顔を上げると見たこともない、僅かに切なげに顔を歪ませている楓さんがいた。
まるで泣き出すのを堪えているような、そんな表情。
「楓、さん?」
(どうしてあなたがそんな顔をしているの?)
その時掴まれていた方の手の力がふと緩んでしまい、そこからすり抜けるように滑り落ちた物があった。
「あっ」
楓さんは地面に落ちた物に視線をやると、私から手を離してそれを拾い上げ目の前にかざしてみせる。
「…………、ネックレス?」
「あ、あの、それは……」
説明しようとする私を見て何を思ったのか、楓さんは再び私の腕を掴むと突然踵を返し屋敷へと歩き始めた。
「あっ、楓さん」
「とりあえず中に入るぞ。風邪をひきたいのか」
傘もささずにしばらくいたせいで二人ともすっかり濡れてしまっている。
確かに身体も冷えてきていたしこのままでは風邪をひいてもおかしくない。
腕を引かれながらふと振り返ると、そこにはまるで置いてきぼりにされたように麻斗さんから渡された傘がぽつんとたたずんでいた。
その光景がなぜか胸を締め付けて切なかった。