想-white&black-M-6
「あいつはお前が思ってるような男じゃない。いい加減目を覚ませ」
楓さんの麻斗さんに対する辛辣な言葉に反抗心が積もっていく。
あなたはいつも私を弄ぶだけで見ようとはしてくれないじゃないか。
気が向いた時好き勝手に抱いたかと思えば、あとは放っておく。
そのくせ他の人の所に逃げ出すことを許してはくれない。
私のことなんてただの玩具にしか思っていないくせに。
分かっている。
私と彼の間にあるのは契約上の関係だけだということも。
どんなに惹かれても報われることのない相手だということも。
分かっていたからこそつい頭に血が上ってしまったのかもしれない。
押し込めていた想いがもう自分で抑えきれなくなりそうだった。
そしてあまりにも楓さんの言葉が麻斗さんを蔑んでいたから。
気が付けば楓さんに向かって静かに口を開いていた。
「麻斗さんのこと、悪く言わないで下さい」
「………何だと?」
私の言葉に楓さんのヘイゼル色の瞳がより深く、昏く鋭くなる。
その目に思わず身体が竦んでしまった。
だが一回口から出てしまった言葉は今更取り返しがつかない。
「ひぃ……っ」
楓さんがゆっくりと傘もささずこっちに近づいてきたかと思うと痛いくらいに手首を掴まれ、その弾みで麻斗さんがくれた傘は私の手を離れ地面に転がった。
「おい、もう一度言ってみろ。誰を何と言うなだって? ふざけるなよ、花音」
「やめ……、楓さん、痛、い……」
そう言っても掴まれた手首は解放されず、更に力を込めて握り締められる。
同時に痛みも増し思わず顔を歪めた。
「俺が見てなけりゃお前は他の男にすり寄るのか。全く救いようのない女のようだな」
「そ、んな……」
心臓から全身にかけて凍りついてしまったような気がした。
楓さんが私を軽蔑するような目で見下ろしていて、その目を見た瞬間雨に混じって頬に堪えきれなかった涙が伝う。
楓さんが私の事を何とも思ってないのは分かっている。
だがそれでもそんな風に言われると、心をぐちゃぐちゃに踏みつぶされたような痛みが内側から突き刺してきた。