想-white&black-M-3
「麻斗さん、いつまでここに?」
「花音様が目が覚める直前までですよ」
目覚める直前ならまだ間に合うかもしれない。
「………ちょっと行ってきます!」
瑠璃さんの言葉を聞いて私は思わずベッドから立ち上がり部屋を飛び出していた。
「花音様っ」
私を呼ぶ瑠海さんと瑠璃さんの声も聞こえないまま。
長い廊下を走り抜け、玄関の扉を開けると少し先に黒い傘をさした男の人の姿が見えた。
雨は今も尚激しく降り続けていたが構わずに外に飛び出して追いかける。
「……っ、待って下さい!」
大声でその背中に叫ぶと、一瞬足を止めてこちらに振り向いてくれた。
美しい薄い金茶の髪は太陽がないせいかいつもよりくすんで見える。
それが彼の心情を表しているように思えて胸が痛む。
「……花音?」
「はあっ、はぁっ……麻斗、さん」
夢中で走ってきたため息が上がり、呼吸が苦しい。
傘もささず追いかけてきた私に麻斗さんの表情が曇った。
「バカやろうっ! 何やってんだよ、こんな雨の中」
普段大きな声をあげることのない麻斗さんは珍しく声を荒げ、こちらに戻ってきてくると私を傘の中に入れてくれた。
「ったく、ズブ濡れじゃねえか。どうしたんだよ」
手が伸びてきたかと思うと、髪の先から頬に伝ってくる滴を何度も何度も長い指が拭う。
その指はいつもよりひんやりと冷たかったが相変わらず優しく触れてくる。
「あのっ、これ持ってきてくれたって……」
手にしていたネックレスを麻斗さんの前に差し出す。
「ああ、これか」
麻斗さんは納得したように小さく微笑むとネックレスにそっと触れた。
まるで愛おしいような大切な何かに触れるように。
「俺のとこに来る時、ほとんど何も持ってこなかった花音がこれを持ってきたってことはよっぽど大事なもんなんじゃねえかなあって思ってさ。あの家に忘れてったから渡してやんないとって思いながら遅くなっちまった。ごめんな」
麻斗さんの言葉に首を横に振る。
謝ることなんかない、こうして戻ってきてくれただけで十分だ。